「ブラックバイト横行」アルバイト基幹化に思うこと

随分久しぶりの更新となります。私の業界では6月・7月が繁忙期なのですが、あまりの繁忙ぶりに全くブログの更新ができず、繁忙期の余韻を引きずって今日にまで至りました。今年の後半に向け巻き返しをはかっていきたいと思います。



さて、本題に入りますが、ブラック企業ならぬ「ブラックバイト」が問題化しているようです。

<ブラックバイト>横行 「契約無視」「試験前も休めず」(毎日新聞
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130808-00000050-mai-soci

アルバイトをする大学生の間で、「契約や希望を無視してシフトを組まれる」「試験前も休ませてくれない」などの悩みが広がっている。学生たちの声を集めた大内裕和・中京大教授(教育学)は、違法な長時間労働などをさせる「ブラック企業」になぞらえ、「ブラックバイト」と呼び、問題視している。企業が非正規雇用の志向を強める中、正社員の業務をアルバイトに肩代わりさせる「基幹化」が進んでいるようだ。


企業の経営環境はますます厳しくなり、人員削減して社員一人当たりの負担は増える一方。結果としてうつ病休職者は激増。そして企業は人件費の安い非正規雇用の比率を増やし、ついには学生アルバイトにまで正社員並の働きを求めて圧力をかける時代がやってきたというわけですか。

記事の中で聞き捨てならないのが、「正社員の業務をアルバイトに肩代わりさせる「基幹化」が進んでいる」ということ。

まあ、学生アルバイトだしいずれどこか別の企業に就職するのだからどう使ってもいいという考えなのでしょうが、ただし、「アルバイトを非正規の待遇のまま基幹化を進める」という考え方そのものは法律的に問題大アリです。

パートタイム労働法では、正社員と同じ仕事をしている場合(職務内容が同じ場合)など一定の要件を満たす短時間労働者について、賃金などの待遇を正社員と差別してはならないとされています。

さらにアルバイトが有期契約労働者である場合には雇い止めの問題が発生するかもしれませんが、雇い止めの有効性の判断基準として、

・地位の基幹性 or 臨時性
・業務内容の恒常性 or 臨時性

という要素があります。正社員の業務をアルバイトに肩代わりさせて基幹化を進めれば、雇い止めをした際にどういう影響があり得るのか、という問題が浮上します。


それこそ正社員同様に業務命令権を広く行使したあげく、期間満了による労働契約の終了のみを主張するなんて、会社は虫が良すぎるでしょ、と判断されるかもしれません。

非正規労働者を雇用する際は、雇用形態に即した内容の雇用契約を締結し、それを遵守するということが重要なのであり、正社員との業務内容、権限、責任に合理的な差を設けなければなりません。契約社員は臨時的業務、パートタイマーやアルバイトは補助的業務、だからこそ正社員とは待遇が違うわけです。それが無理だというのなら、そもそも自社にとって正社員とは一体何なのかをよく考えるべき状況にあるのだと思います。

諭旨退職が退職勧奨と混同されている?

諭旨退職についての相談を受けていると、「もしや退職勧奨と混同しているのではないか」と感じる時があります。いうまでもなく、諭旨退職と退職勧奨は法的に全く別物です。


「諭旨退職」とは、不祥事を起こした懲戒解雇処分相当である労働者に対し、「反省の姿勢を示して期限までに自主的に退職願を提出するならば懲戒解雇は行わず自己都合退職として取り扱う」というような情状酌量的な制度です。無論、自己都合退職として処理するとはいえ、あくまで「諭旨退職」という名の懲戒処分ですから就業規則にあらかじめ懲戒規定がなければそもそも成立しません。

そして重要なことは、諭旨退職は本来その労働者の行為が懲戒解雇に値することを前提として退職願を提出させ雇用関係を終了させる懲戒処分ですから、その有効性は懲戒解雇と同様に厳格かつ慎重に判断されるべきものであるということです。

つまり、労働者の行為が懲戒解雇を科すのに相当といえることが必要なのであり、そもそも懲戒解雇が罰として重過ぎるのであれば、それを前提とする諭旨退職処分もまた当然に無効となり得るという考え方が成り立ちます。(※懲戒処分の有効性は労働契約法第15条の懲戒権濫用法理によって判断されます。)



労働者に退職願を提出させる点においては、手続き上は確かに退職勧奨による退職と外見は変わらないように感じますが、取り扱いとしては諭旨退職は自己都合退職、退職勧奨は合意退職(会社都合退職)となる点において全く法的に異なるものです。

また、最も混同されがちなのが、失業給付に関連する離職票の離職理由に関してです。退職勧奨の場合には会社から退職の申し込みを行っている訳であり会社都合となりますが、この点も結局「背景に重責解雇相当の行為があった上での退職願提出による諭旨退職」ということであれば、自己都合として取り扱って問題はありません。

極端な話、離職理由は失業給付の支給を決める為のものですから、雇用保険的な視点からはどちらの都合で離職となったのかさえ分かればよいのであり、そして本人が不祥事を起こしたことに端を発する退職なのですから自己都合ということは明白です。


なお、退職勧奨の場合は退職合意書を交わすことをお勧めしますが、諭旨退職の場合は諭旨退職仕様の退職願をきっちりとるのがよいでしょう。退職理由の記載は「一身上の都合」ではなく「非行を行ったので自主的に」という記載の方がよいと思います。諭旨退職は解雇ではありませんから、もちろん30日前の解雇予告は必要ありません。(この点、同じ懲戒処分としてよく挙げられる「諭旨解雇」とは明確に異なります)

あと、退職金の減額は、自己都合といえども懲戒処分である以上、通常の自主退職とは区別して減額率を大きくするなど別途定めができますのでしておいた方が良いと思います。

身元保証書の注意点および身元保証人の責任の範囲

企業で人を採用する際、特に正規雇用社員の入社に際して身元保証書の提出を義務付けている会社は少なくありません。

この「身元保証」とは、従業員の行為によって会社が損害を受けた場合に、身元保証人がその損害を賠償するという内容の契約であり、会社と身元保証人との間で締結するものです。

金銭貸借の保証人とは異なり金額があらかじめ確定していないという点で損害額が予想できませんので、身元保証人を保護する目的から「身元保証に関する法律」において、その責任の範囲等が制限されているのです。


身元保証人をたてておけば会社は損害の全額を請求できるかというとそうではありません。法律において、

裁判所は、身元保証人の損害賠償の責任及びその金額を定めるとき、被用者の監督に関する使用者の過失の有無、身元保証人が身元保証をするに至った事由及びそれをするときにした注意の程度、被用者の任務または身上の変化その他一切の事情をあれこれ照らし合わせて取捨する

とされており、実際には相当程度制限がかかるものと考えておくべきだと思います。



法律によれば、身元保証の期間を定める場合には5年を上限とし、5年を超えた部分は無効となります。もし契約に期間の定めがない場合には、保証期間は3年です。ちなみに契約の更新は可能ですが、就業規則に更新の必要性について明記しておかなければ、労働者から拒否されても会社側は何も言えませんし処分もできません。(そもそもあまり長期間にわたって身元保証書を提出させること自体、望ましい運用とはいえませんが。)



特に注意が必要なのは、身元保証契約の内容に変更があった際には、身元保証人にその旨を遅滞なく通知しておかなければ賠償責任を問えなくなる可能性がある点です。

通知すべき変更内容を具体的にいうと

1.労働者に業務上不適任または不誠実な事跡があって、このために身元保証人の責任の問題を引き起こす恐れがあることを知ったとき。

2.労働者の任務または任地を変更し、このために身元保証人の責任を加重し、またはその監督を困難にするとき。

ということなります。さらに身元保証人はこれらの通知を受けた時は保証契約を解除することができます。

会社が上記通知義務を怠っていたとしても身元保証契約自体が失効することはありませんが、加重された保証内容を求めることができなくなりますので、実質的に契約の実効性が薄くなります。昇進したとき、職種変更したとき、遠隔地に転勤になった時などは通知すべきだと考えられます。現実に多くの企業において、この辺りの管理はできていないのが現状ではないでしょうか。



その他の注意事項としては、


短期の契約社員に対して身元保証書を求めることは、長期雇用を前提にしていると解釈されかねないことから望ましいとはいえないこと。

近年の労働者のメンタル不調によるトラブル増加を考えると、身元保証人に協力を求めるケースも想定されるので、身元保証人の要件に「親族であること」を規定すること。


などが考えられます。


なお、身元保証書の押印を実印で行い、印鑑証明の提出を求めることも企業の自由ですが、これから入社して働く労働者との信頼関係にも影響しますので、誤解のないよう説明し十分に納得を得ることが大切だと思います。

なぜ始末書が必要なのか(始末書の法律実務)

労働者が不祥事を起こした時に始末書をきちんと提出させない会社が見うけられます。私は関与先の会社には必ず始末書をとるようにお願いしています。労働者に始末書を書かせることは法的にみて非常に重要な意味があるのです。


始末書を提出させる目的とは何でしょうか。もちろん本人の反省を促してけじめをつけることにより再発を防止するという目的はあるでしょう。しかしそれだけではありません。

最も重要な目的は、労働者が不祥事を起こしたことについて、本人直筆の書面の証拠を確保するということです。つまり、今後この労働者を解雇せざるを得なくなった場面において、労働契約法第16条・解雇権濫用法理を充足させるべく、過去の労働者の非違行為の事実、および会社が指導を行ったという記録を残すことになるわけです。これにより、会社は再三注意・指導を行ったにもかかわらず、残念ながら改善がみられなかったということが言えるわけです。さらに労働者の弁明が書かれていれば、弁明の機会を与えたという証明にもつながります。性悪説で従業員の将来を疑うようなことはしたくないかもしれませんが、リスク管理の為には非常に大事なことです。



この目的を踏まえた場合、始末書の中身というのが重要になってきます。

一般的に始末書といえば、事の顛末を記載し、本人の謝罪の意や「今後二度としません」という誓約的な文が書かれるものです。この後半の謝罪や誓約が重要だと通常は考えるでしょう。しかし、法的な意味で言えば、大切なのは前半の不祥事の顛末の部分です。

極論をいえば、謝罪や誓約の部分はなくても構いません。紛争となった際にはむしろ本人の反省がみられないとみなされ本人が不利になる可能性も考えられます。

それよりも注意すべきことは、本人の自由意思によらずに会社が強制的に謝罪文を書かせてはならないということです。その意味でいうと、始末書の提出命令に従わない労働者に対して懲戒処分を科すことにも問題があるといえます。憲法第19条が保証する思想・良心の自由に反すると解されるからです。


もしも労働者が始末書の提出に従わなかったり拒否をする場合には、不祥事の事実のみについて記載するよう改めて命じ、これに従わない場合には懲戒処分も有りだと思います。

仮に労働者の提出してきた始末書の顛末の記載が事実と異なる場合には、書き直しを命じることも必要です。書き直しをさせた後、全てのバージョンの始末書を保管しておくと完璧です。



最後に1点注意ですが、始末書というものは通常、懲戒の「けん責」および他の処分において規定されるものであり、重大な不祥事の際に提出を義務付けるものです。

ですからさほど重大とはいえない軽微な問題行動についてまでいちいち始末書を提出させるわけにはいきませんが、解雇権濫用を否定する為には細かい記録の積み重ねが重要になりますから、注意書というような形式を使ったり、指導記録をつけていくことで対応していくのがよいと思います。

「限定正社員」をめぐる大いなる誤解

ここ数週間、ニュースで「限定正社員」という雇用形態についての報道が多くなってきたようです。政府の規制改革会議が推し進めているようです。夏の参院選を考慮して安倍政権が「解雇規制緩和」政策を見送ったのでその代わりということでしょうか。

「限定正社員」の中身は以前ニュースで報じられた「準正社員」と同じものです。雇用契約によって職務・勤務地を限定することにより、事業所閉鎖など担当職務や事業所がなくなってしまった場合の解雇が容易になるということです。



私は以前の記事でも書きましたが、法改正を行わなくとも現行法のままでこの運用自体は可能です。職務限定・勤務地限定の雇用契約が結ばれ、その内容で適切に運用されている限り、事業所撤退等を理由にした整理解雇は客観的に合理的な理由を有する解雇として有効と認められます。

ただ、そうは言っても多くの企業は訴訟のリスクを恐れて職種・勤務地限定契約の運用に二の足を踏む状況なので、それならば統一した解雇ルールを法律で明文化することによって企業が安心して限定契約を運用できるようにしようという話であればまあ理解はできるのですが。



しかしながら、マスコミで報じられている「限定正社員」は、本来法律的にないはずの意味あいが勝手に付加されて違う方向にいっていると思われるので、それは違うだろうというところを書いておきます。



正規と非正規の中間「限定正社員」って? 普及策検討中(朝日新聞
http://www.asahi.com/business/update/0506/TKY201305060006.html

正社員だけど、モーレツではなく、働く職種や地域が限られる。仕事がなくなれば解雇される可能性もある――。そんな「限定正社員」を広げる議論が安倍政権で進む。「働きやすさ」を高めるねらいがあるが、「解雇しやすさ」につなげる思惑ものぞく。

まず、これはタイトルからしておかしいです。法的に考えて、職種・勤務地限定の労働者がなぜ当然のように「正規と非正規の中間」になるのでしょうか。仮に中間に位置づけるとしてもそれは企業が個々に自由に決める問題であり、政府の有識者会議主導で政策として進める問題ではありません。

そもそも法的に正社員という分類はないのであって、限定正社員をあえて分類するならば、無期雇用労働者について職務・勤務地が限定されているのかされていないのか、という区分になります。どちらが上ということではなく、契約において何を許容し、何を得るのかをそれぞれの合意によって決める、ということです。

海外ではむしろ職務限定契約は一般的な契約形態であり、非正規的な取り扱いでは決してありません。もちろん仕事内容が決まっているのですからその仕事がなくなれば解雇されるのは正当であり、「解雇しやすさにつなげる思惑」も何も、整理解雇が容易なのは当然の帰結なのです。有識者会議の方々は「解雇規制緩和」のソフトバージョンくらいに考えているのかもしれませんが、これは解雇規制の緩和ではありません。契約の問題なのです。



労働契約に職務内容明記 限定正社員の雇用ルール素案(日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS1903L_Z10C13A4EE8000/

仕事の範囲が限られる分、賃金は従来型の正社員より安くなる。

なぜ職務が限定されると、当然のように賃金はこれまでの正社員より安くなるといえるのでしょうか。

そもそも日本では正社員の職務・勤務地が限定されず、企業の命令によって配置換え、転勤等が行われるがために賃金を仕事基準で決めることができず、結果として属人的な職能給という名の年功賃金を運用せざるを得なかった訳です。

限定正社員は仕事が限定されているのですから、賃金を仕事基準(つまり職務給)によって決めるのが本来のあり方なのです。この場合、年齢・勤続といった要素は基本的に入り込む余地はありません。

つまり、その職種を何十年やってきた専門職的な限定正社員(職務給)が、入社して2〜3年の限定のない正社員(年功給)よりも賃金が安くなるということは本来あり得ないのであって、そんなことが当然のごとく記事に書かれている時点で、しょせん限定正社員は「従来の正社員より安く解雇しやすく使えるし、パートや契約社員よりは士気があがるだろう」くらいの認識しか持たれていないのだと思われます。



限定正社員の運用の拡大は確かに多様化する働き方のニーズに対応できる可能性をひめています。しかし危惧するのは、誤解しているのが有識者会議なのかマスコミなのかは不明ですが、多くの誤解のもとに限定正社員が運用されてしまう危険性です。以下まとめます。


限定正社員の整理解雇が容易なのは解雇規制が緩和されている訳ではなく、従って経営者の恣意的な解雇は当然許されず、能力不足、非違行為などを理由とする解雇は通常通り厳格に判断されるということ

限定正社員は法的には正規・非正規の中間という位置付けはなく、あくまでこれまでの無期労働者の職務・勤務地が限定されているに過ぎず、契約内容は当事者によって決められるものであるということ

限定正社員を非正規雇用の延長として低賃金で使おうとする方向性が垣間見えるが、本来、限定なしの正社員に比べ一貫して同じ職種を続けることから高い職業能力の維持が期待できるのであり、職務給によって適正に処遇されることにより限定正社員全体のスキル向上につなげるべきであるということ


ぜひとも注意していただきたいと思います。

喫煙者を採用しない企業に入社した後、喫煙が発覚した場合の解雇は認められるのか

以前、星野リゾートの「喫煙者を採用しない」という方針がニュースで話題になりました。ウェブサイト上の採用ページで応募者の喫煙の有無を確認し、元々喫煙をしない場合か、もしくは禁煙を誓約することを選択しなければ採用選考に進むことができないというルールです。

そして最近は同社と同じように、「喫煙しないこと」を採用の条件にするという企業が増えているようです。



これに関して、まず「喫煙を理由に不採用とすることは法的に許されるのか」という問題がありますが、企業には広く採用の自由が認められており、喫煙の有無は年齢や性別のように特に法律によって差別が禁止されているわけではありません。

また、喫煙行為は業務と全く関係がないとはいえず、採用条件とすることにも一定程度の合理的な理由が認められますから(作業効率・施設効率・職場環境など)、禁煙を採用の条件にしたとしても違法ではないと考えられます。



さて、この話題に関しては、もっと難しい問題があります。

禁煙を心に誓って入社したものの、結局我慢できずにタバコを吸ってしまう可能性がありますし、そもそも最初から嘘をついて入社する労働者もいるかもしれません。タバコを吸わないことを条件に入社したのに、実は入社後に隠れて喫煙していた事実が発覚した時に、はたして会社はこの社員を解雇できるのか、という問題です。

仕事中に会社内で喫煙をしていればこれは業務および企業の秩序維持・施設管理等に直結する問題であり、会社は懲戒処分を下して場合によっては解雇することも当然認められるものと考えられます。

しかしながら、例えば労働者が業務中あるいは勤務時間外であっても会社内では一切喫煙をせず、プライベートな時間帯にのみ喫煙行為を行っていた場合にはどうでしょうか。

集中力の低下も起きず、タバコ休憩でちょくちょく席を立つこともなく、周りの同僚にタバコ臭で迷惑をかけることもなく、そして会社では喫煙しないので分煙の為の喫煙所という無駄なスペースが生じることもない状況です。

禁煙が採用条件だったわけですから当該労働者に対して喫煙行為を注意指導し、応じなければ懲戒処分を科すことは可能かもしれません。しかし、現実に喫煙行為が業務に一切支障をきたしていない状況では解雇まで行うことに合理性は認められないのではないかと考えられます。裁判になれば不当解雇と判断される可能性も十分にあり得るというのが個人的な考えです。

以上の点を踏まえて、禁煙を採用の条件とする制度の運用については十分に注意が必要だと思います。

入社前研修の賃金・労災その他取扱い

採用内定者向けに入社日前に研修を実施することがありますが、賃金は支給すべきなのか、支給する場合の金額はどうするのか、労災は適用になるのかといった質問を受けることがあります。


入社前研修について賃金支払いが必要になるかどうかは、基本的には研修に参加した時間が労働時間といえるのか(内定者が労働者として働いたのか)によって決まります。

つまり、

1.研修の内容が業務に関連するといえるもので、

2.会社の指揮命令下におかれていると評価できて、

3.実質的に強制参加といえるもの(参加しない場合に不利益取扱いのあるものを含む)

ということであれば、その研修は労働時間と考えられますから、入社前の研修といえども労働の対価として賃金を支払う必要があるということになります。


では賃金を支払う場合、既に内定として成立している雇用契約に定められた初任給を按分計算して支給する必要があるのかという次の疑問が湧いてきますが、初任給についてはあくまでも入社日以降の賃金額について契約したものですから、最低賃金を下回らない限りはいくらに設定しても法違反にはなりません。その際には賃金額をあらかじめ通知書等の書面で明示したうえ承諾を得ておくのが確実だと思います。



次に、入社前研修が労働時間ということであれば労災はどうなるのかという問題がでてきます。

この点は内定者が労働基準法第9条に定められた「労働者」に該当するのかという労働者性の有無によって判断されることになります。

ただし、注意すべきは賃金の件とは異なり、厚労省は入社前研修中の労災の適用に関しては厳密に判断する姿勢をとっていることです。具体的には研修内容が業務と関連性の薄いもの、例えばマナー研修や経済講演のような一般研修の場合には、支払われる手当については恩恵的給付であると判断される可能性があり、労災が認められないということも考えられます。

そのため労災の適用を望むのであれば、最低賃金以上の支給はもちろんですが、アルバイト等のかたちで雇用契約を締結した上で、研修内容に関して本格的な業務遂行を含む関連性の強いものにする必要があると考えられます。


なお、労災の適用の可否に係らず、研修中の事故等については企業に安全配慮義務が求められることになります(通勤途上は別ですが)。この点に関してはインターンシップの場合と同様、研修生の傷病、死亡事故、その他セクハラ・パワハラ等に関して企業側の過失が認められれば賠償責任が生じるリスクがありますのでご注意ください。





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