「業績が悪いので退職金払えません」はアリなのか

退職金制度を作ったり見直しを加えたりする際にこう相談されることがあります。

「会社の業績が悪い時は不支給とするルールにできないか」

つまり賞与と同じようにしたいということです。
通常、就業規則の賞与の条文には以下のような記載があるはずです。

「会社業績の著しい低下その他やむを得ない事由がある場合には、支給しないことがある。」

これを不確定文言といいますが、退職金でも念のためこの不確定文言を入れたいということです。



結論としては、それはちょっと厳しいと思います。
そのような規定は不当と判断される可能性が高いでしょう。



賞与は半年ないし1年間を支給対象期間として不確定的に支給するものです。その直近の半年なり1年間の業績が悪ければその年は支給できないという理屈もよく理解できます。

しかし、退職金とはそもそも法的に賃金後払的な性格を有しているものであり、例えば20年間勤務したケースであれば20年間毎年給料を支払う代わりにいくらかを退職金として積み立ててきたことになるのです。

20年間労働者の本来受け取る給料から退職金引き当て分を差っ引いておきながら、今になってたまたま金庫にお金がないので20年間積み立てた分まで全部払えませんというのは全く筋が通りません。

退職金制度はいったん規定化した以上、会社が恩恵的に与えるものではなく法律上「賃金」となるわけです。「何十年後に会社を辞めるときにこれだけ払いますよ」という条件も含めて労働者を採用しているはずであり、その人材獲得メリットだけ享受しておきながら業績が悪くなったら払えませんという主張は裁判ではまず通らないでしょう。それなら最初から退職金制度をつくるべきでなかったと言われてしまいます。

例えば業績がここ2〜3年で悪化していて、その範囲において不支給とするということであれば合理性が認められる余地もあるでしょう。退職金債務を割と軽く考える方もいますが、毎月の賃金と同じくらい重要であることを忘れてはいけません。

労働基準監督官の現実<ダンダリンを視聴して>

日本テレビ系連続ドラマ「ダンダリン 労働基準監督官」の第1回オンエアを見ました。一般的に馴染みのない労働基準監督官という職業についてそれなりに具体的に表現できていたように思います。

以下、ドラマでやっていた内容について、実際はどうなのか、個人的にどう感じたかを項目別に言及してみようと思います。




労働基準監督官は労働基準法違反があった場合、逮捕できるということが強調される内容だった。

確かに監督官は司法警察員なので一般の警察官のように逮捕状を裁判官に請求して逮捕ができますが、このようないわゆる「通常逮捕」ではなく「現行犯逮捕」という形であれば法律的には一般人でも逮捕はできるわけですし、ことさら逮捕を強調するよりも送検権限があるという方が現実的ではあると思います。実際に書類送検はザラにあります。

でもドラマ的には書類送検のシーンを放映しても面白くも何ともないことは確かです。




労働者から口頭でサービス残業が常態化していることを聞いただけで、段田凛(労働基準監督官)がすぐに臨検に行くと言い出した。

実際には、労働者からサービス残業の存在を聞いただけでは有り得ない話です。監督官は通常、客観的な証拠等によって違法性をある程度特定した上でなければ臨検は行いません。仮に物的な証拠がほとんどなかったにしても、労働者から細かく聞き取りをして、その内容に違法行為の信憑性が確認できる状況でもなければ職権を発動することはないでしょう。

具体的にはサービス残業の場合は、その会社の労働時間や賃金がどう規定されていて、何月何日にそれぞれ何時間何分の残業をして、それに対する給料の支払いはどうなっていて、結果それらが労働基準法第何条に違反するのか、ということを労働者は監督官に申告します。監督官はそれらの申告に基づいて、調査が必要なのか、調査するとすれば担当者を監督署に呼び出すか、それとも臨検するか、といったことを判断します。

これは監督官が労働基準法違反という刑法犯を扱っており慎重を期しているとも考えられますし、監督官の人数が少な過ぎて全てを調査していたら回らないので違法性をある程度特定できた案件のみ動くという面も影響していると考えられます。




「労働基準監督官は全国に3千人もいるのに被疑者逮捕は年平均2件しかない」というセリフ

逮捕の件数の少なさを強調する為のセリフではありますが、これだけ聞くとまるで労働基準監督官が現状十分に足りているように聞こえるかもしれません。

実際のところ、3000人という人数(2千人台後半といわれている)は圧倒的に人手が不足しているといわれています。労基署に行くとたくさん職員がいるので何も知らない一般の人は職員がみな労働基準監督官だと思うかもしれませんが、監督官はごく一部です。

東京で最も企業の集中する中央労基署では、監督官一人に対して3千数百の企業を受け持つ必要があるといわれています。対応する案件が多すぎて、長時間労働を取り締まるべき監督官が一番長時間勤務に陥っているという冗談のような話です。



と何だかんだ書いてますが、総合してかなりリアルに描かれていると思います。求人を「かわいい女の子」に限定する行為(男女雇用機会均等法違反)やパワハラといった案件が、労基署ではなく労働局の管轄である等なども正確ですし、逮捕前に検察に根回しをするあたりも間違いないと思います。





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「残業代ゼロ」特区という報道の違和感

企業が労働者を解雇しやすくして、さらに労働時間規制を緩和し残業代をゼロにすることも認められる特区の法案が秋の臨時国会で提出されるという報道があります。一定の年収以上の労働者、高度で特殊な能力・専門的な技術を持ち法規制にとらわれずに思い切り働きたい労働者を想定しているといいます。

現行法下において企業が労働者に対し時間外割増賃金を支払わなくてもよい場面は主に2つあり、1つは労働者が管理監督者に該当するケース(※厳密には労基法第41条該当者)、もう1つはみなし労働時間制・裁量労働制が適用されているケースですが、みなし労働時間制・裁量労働制はあくまで労働時間のカウント方法に関する特例であって、今回の法案は労働時間規制を緩和するといっていますから、労働時間規制を適用させない管理監督者に準じたものであるということになります。以前話題になって見送りとなったホワイトカラーエグゼンプションと似たようなものだと考えていいでしょう。

管理監督者労働基準法の労働時間に係る規定が適用されません。経営者と一体的な立場で大きな裁量をもって働く訳ですから、経営者と同じように労働時間の枠に収めることが難しく、むしろその枠を超えて働く必要があり、また、経営者並みの裁量・権限があるので規制をはずしても特に本人の不利益にはならないという考え方です。もちろん相応の収入があることが大前提です。

そして労働時間の規制自体がないので、そもそも法定労働時間がありません(所定労働時間を定めるのはある意味企業の自由だと思いますが)。法定労働時間がないので残業(法定時間外労働)という考え方は当然あてはまりません。残業という概念はないのです。残業がないのだから残業代もありません。「残業代ゼロ」なのではなくて、「残業代という項目」が初めからないのです。

考えてみれば、「残業が発生しているのに残業代を支払わなくてもよい」とされる法律は元々ありません。みなし労働時間制・裁量労働制にしても、「みなし時間」が法定時間を超えていれば時間外割増賃金の支払いは必要になります。一方、管理監督者は残業自体が発生し得ないのです。

そう考えると、今回の法案に係る報道が「残業代ゼロ」と言われているのもおかしなものだと思います。

今回の法案が通れば、特区内においては労働時間の規制が緩和され、管理監督者と同様にその要件(権限や責任、職務内容、裁量、収入)が定められ、要件に該当する労働者は労働時間規制の外で裁量をもって働くことになります。もちろん企業はそれら労働時間規制のはずれた労働者に対しても安全配慮義務を負うわけであり、実質的に労働時間を把握する必要がありますし、長時間労働によって過労死などが発生すれば責任を追及されることになります。また、実態として要件を満たしていなければ通常の労働時間に係る規定が遡って適用され、名ばかり管理職のケースと同じように残業代を遡って請求されるリスクもあるでしょう。

このように企業は労働時間規制を緩和されるとしても、今回の「残業代ゼロ」のような見出しの報道に惑わされて企業側に存在する責任を忘れてはいけません。また、報道する側は「残業代ゼロ」をことさら打ち出すのではなく、労働時間規制を緩和する対象者とその要件は労働政策として適正なのか、そして過労死等の労働災害を予防する為にはどのような規制が別途必要なのかがきちんと議論されるような形で報道するべきだと思います。

変動の多いパートタイマーの有休(比例付与)の基準

年次有給休暇は、雇い入れから6ヵ月間継続勤務し、全労働日の8割以上を出勤した労働者に対して10日間が付与されますが、所定労働日数や労働時間の少ない労働者(つまりパートタイマー)であっても、その労働日数に応じた日数の年休が付与されることになります。これを比例付与といいます。

具体的には、1週間の所定労働時間が30時間未満であって、かつ、1週間の所定労働日数が4日以下(週以外の期間によって所定労働日数が定められているパート労働者の場合は、1年間の所定労働日数が216日以下)の労働者が比例付与の対象になります。

そして、比例付与の際の付与日数は年休が発生する「基準日」時点における今後1年間に予定される所定労働日数および所定労働時間に基づいて決定されます。その後、年度の途中で仮に所定労働日数が変更になったとしても、付与された日数が変わることはありません。ですから例えば、最初の半年間の所定労働日数が週4日であってとしても、基準日において今後1年間の所定労働日数が週5日という予定であれば、その労働者は比例付与ではなく通常の労働者と同じように10日の有休が付与されることになり、その後の年度中に契約が変わって週4日に戻ったとしても、有休は基準日において発生した日数のままです。

しかしながら、現実にはパートの雇用契約はきちんと締結されていないケースも多いので所定労働時間や日数が曖昧ではっきりせず、あるいは季節によって所定時間・日数が不規則に変わったり、本人や会社の都合によって随時変更になるような運用も少なくないと思います。

所定労働日数が週1日であった労働者が、基準日付近でたまたま週5日の条件で働いていて通常の労働者と同様の10日間の有休を与えられ、その後また週1日勤務の契約に変わってしまったというケースを考えると、とても合理的とは思えません。

こうしたパートタイマーの所定労働日数が大きく変動するようなケースについては、参考となる通達が存在します。

訪問介護労働者の法定労働条件の確保のために」(平成16年8月27日基発第0827001)

予定されている所定労働日数が算出しがたい場合には、基準日直前の実績を考慮して所定労働日数を算出しても差し支えないという内容です。具体的な処理としては、過去1年間の出勤日を月ごとに集計し、合計日数を労働基準法施行規則第24条の3で定める「一年間の所定労働日数」の区分にあてはめることになります。なお、雇入れ後の最初の有休付与に関しては、過去6ヵ月の労働日数の実績を2倍したものを1年間の所定労働日数とみなして判断することになります。





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解雇の金銭解決ルールは労働者にとってはたして損なのか

解雇金銭解決制度の議論に関するこんなニュースがあります。

解雇補償金制度が導入されると「カネさえ払えばクビ」にできる?(週プレNEWS)
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130828-00000427-playboyz-soci

「制度化されれば解雇解決金の水準が示されます。現状では従業員が会社側と最高裁まで争って勝訴すれば、判決確定までの賃金の支払いと将来の賃金相当分の支払いが会社側に命じられ、少なくとも3年分の賃金は確保できる。

しかし、この制度をすでに導入しているスウェーデン(勤続5年未満→月給6ヵ月分など)がそうであるように、制度化されると解決金の水準が低めに設定され、従業員にとっては現状より少ない金額と引き換えに解雇されることになります」(労働問題に詳しいジャーナリストの金子雅臣氏)


現行法の下で労働者は最高裁まで争えば少なくとも3年分の賃金を勝ち取れるというのは、全体から見ればあまりにも一握りの結果を一般化しすぎだと思います。

世の中の不当解雇といわれる解雇案件のうち、多くは行政のあっせんや労働審判によって低水準の解決金で解決されており、ごく少数だけが裁判まで進んで徹底抗戦を行い、そして圧倒的大多数の労働者は具体的行動さえ起こさずに泣き寝入りしているのが現状です。

そもそも大企業と中小企業では全く状況が異なる現実があります。

大企業であれば解雇以前の退職勧奨の段階で賃金1年分〜2年分などの高い水準の金額が提示されることもよくありますし、従業員もまた金銭的に余裕がある人が比較的多く、本腰を入れて個別労働紛争に乗り出す確率も高いでしょう。労働審判民事訴訟へと進めば2年分、3年分などの解決金額になる可能性も確かにあり得る訳です。

ところが中小企業の場合、解決金が賃金2〜3ヵ月分などというのはよくある話であり、行政のあっせんのレベルでは賃金1ヵ月分の解決金が提示されることも全く珍しくないのです。それ以前にすぐ次の職を見つけないと生活が成り立たず、とても結果の見えない紛争を押っ始めるような余裕はないという労働者が大半であり、「会社側と最高裁まで争って勝訴すれば」という状況がいかに非現実的な夢物語なのかというところです。このような現状を踏まえれば、例えば解決金が賃金6ヵ月分という水準を法制度によって確実に補償されることであれば、一概に労働者にとって損だと一刀両断に言い切れるものでもありません。

結論を言えば、金銭解決ルールの法制化は、大企業の労働者にとっては解決金水準が現在よりもおそらく下がることとなり、逆に中小企業の労働者にとっては解決金水準が上がるうえ、さらに法制度によって最低限の解決金が担保され泣き寝入りするケースが大幅に減少する可能性が高いのでは?と考えるのであります。

では企業にとってどうなのかといえば、概ね労働者の場合と逆になるということでしょうか。もちろん各企業の方針・考え方によって異なると思いますが。

ただそれにしても、いかに解雇無効の場合は現職復帰が原則とはいえ、現行法下においてはあっせん・労働審判ではほぼ全てが、そして裁判になっても本人が現職復帰を強く望んで判決を取りにいかない限りその多くが事実上和解によって金銭解決しているのが現状であり、そもそもの金銭解決ルールの趣旨と必要性についてもう少しきちんと考えて議論すべきであると思います。

休職期間を安易に延長すべきではない

休職制度は解雇リスクを避ける意味でも企業にとって大変重要な制度ですが、悩ましいのは休職期間の終了時期が近づいてきた復職間際のところでしょう。

本人の復職の意思を確認し、意思アリであれば職場復帰可能を証明する主治医の診断書を提出してもらい、さらに産業医もOKを出してくれれば申し分ありません。

ところが、休職期間終了ギリギリまで休職していた従業員がそう何の問題もなくスンナリと復職できるとは限りません。本人も復職するのかしないのか要領を得ない態度で、傷病は完治しておらず医師の証明も微妙という状況もあります。このような場面では会社もなかなか判断をしたくありません。会社の就業規則の休職規定には大抵、

「会社が必要と認めたときは延長できる。」

という文言が入っています。「とりあえずもう少し延長をして様子を見るか」と結論を先延ばしする会社も少なくないように感じます。

しかし、これはやってはいけないことです。何が問題かというと、「なぜ延長したか明確に説明できない」ということです。延長は特段の事情が存在しない限りするべきではありません。特段の事情とは極めて近い将来傷病が治癒し復職できるという具体的な見込みです。

休職は解雇を猶予する制度であり、どの程度まで猶予するのが適切かは企業の事情によって異なりますし、復職可否や延長の判断は企業の裁量によって判断するものであることは確かですが、企業ごとにそれぞれ一貫した判断をしていかなくてはなりません。

「とりあえず延長」を1回やれば、今後、微妙な案件では何度も延長が必要になるかもしれません。従業員側に過去の延長を指摘された時に、延長する・しないの明確な基準をきちんと説明できるでしょうか。ある労働者は延長なしで休職期間満了退職、一方、ある労働者は何度か延長したうえ完治し復職、それを曖昧な基準で判断されたらたまらないということになります。復職可否の判断は労働契約の終了を左右するものであり、一歩間違えればすぐに訴訟沙汰になるということを忘れずに慎重に判断したいところです。

「労基法違反=ブラック企業」という定義付けでは規制は無理です

政府が法令違反が疑われる4千事業所に立ち入り調査をすると発表しました。


ブラック企業の対策強化 厚労省、4千事業所立ち入りへ(2013年8月8日朝日新聞)
http://www.asahi.com/business/update/0808/TKY201308080082.html

若者の使い捨てが疑われる「ブラック企業」対策として、厚生労働省は8日、9月を集中月間にし、約4千事業所に立ち入り調査をすると発表した。違法な残業や賃金不払いなどが疑われるケースに加え、「離職率」が極端に高い企業も初めて対象にし、調査する。
(中略)法律違反が見つかり、指導に応じない場合は、ハローワークでの職業紹介を受け付けない。また、重大・悪質な違反が確認されれば送検し、社名も公表する。


4千事業所を調査するというのはかなりのインパクトですが、ただこれでブラック企業対策になるのかといえば疑問だと思います。


ところでブラック企業の規制を論じる際によく問題となるのが、どうやってブラック企業を定義し特定するのかということです。そして、そんな話になると必ずこんな意見がたくさん出てきます。

「そんなの簡単だ。労働基準法に違反している企業=ブラック企業、ということにすればよい。」


確かに労基法に違反しているというのはわかりやすい基準ですが、その基準でブラック企業対策を進めても、実際はブラック企業の取り締まりにはあまり効果はありません。なぜなら、このブログで既に述べていますが、世間でブラック企業といわれるであろう会社で労基法に違反していない会社なんて山ほどあるからです。

以下参照
ブラック企業は社名公表よりも労基法違反取締強化によって減少するという意見は見当違い - 人事労務コンサルタントmayamaの視点


ブラック企業関連で最も多い労基法違反は残業代の不払いでしょう。堂々と違反している企業も確かにまだ少なくありません。

しかし、定額残業代の制度を利用することによって企業は対策が可能です。判例の示すポイントを踏まえて適正に運用する限り、労働基準監督署も違法ではないという見解を示します。実際、多くの企業がこの定額残業代を導入することにより、月例賃金以外の残業代を追加で支払うことなく合法的に労働者に残業をさせています。

日本の法律では36協定さえ結べば青天井で何時間でも労働者に残業させることが可能です。ですから、36協定を締結し固定残業代を運用して残業させる限り、過重労働を強いても労基法には違反しません。

これが望ましいことなのかどうかはともかく、前述の基準によればブラック企業には該当しないということになります。

さて、一方、解雇、退職強要、セクハラ・パワハラ、配転、減給などの行為は例えそれが客観的にみて不当なやり方であったとしても、基本的に労基法には抵触しません(ただし解雇予告や解雇制限は別ですが)。これは労働基準法の条文には記載がないからです。これらの問題は監督署に申し出るのではなく、自分たちで民事的に話し合って解決しなければならない類いの問題です。


ですから、例えば先ほどのように定額残業代を適正に運用し合法的に残業をさせている会社が、仮に気に入らない社員を能力不足とかノルマ未達成といった理由で次々に解雇したり、年配でパフォーマンスの落ちてきた社員をどんどん追い出し部屋に押し込んだり、有休や育休を申請した社員に対し常軌を逸する威圧的な指導を行ってうつ病休職に追い込んだり、転勤や減給をちらつかせて執拗に退職勧奨を迫るような行為を繰り返していたとしても、労働基準法には違反せず、従って前述の「労基法違反=ブラック企業」という基準に照らせばブラック企業には該当しないということになってしまいます。



では労基法違反企業は放っておけばよいのかというとそういう訳ではなく、もちろんできる限り指導を行っていくべきだと思います。今回の4000事業所立ち入りは労基法違反企業にはそれなりの効果があるはずです。法令に関する知識が欠けている為に法に違反している経営者も少なくありませんし、そもそも立ち入り調査や指導を行う労働基準監督官の人数が少なすぎるという根本的な問題もあって指導が行き届いていない状況です。

しかしながら、ブラック企業と呼ばれる企業の対策は労基法を基準にしたのではなかなか難しいでしょう。労基法は行政指導を行う為のものであり、同時に犯罪行為を特定し刑事訴追を行う為のものですが、ブラック企業の行為の多くはそれらの前提となる違法性を特定することが困難なのです。対策に必要なのは、民事的に問題を解決する為の司法プロセスの環境整備をすること、そして労働時間規制を割増賃金で間接的に行うのではなく、直接インターバル規制をしてしまうことだと思います。