内部通報で求められる対応

上司の行動について企業に内部通報を行った社員が報復人事を受けたとして訴えた裁判で、東京高裁は社員側が敗訴した1審判決を取り消し、配置転換は人事権の濫用にあたるとして無効とし、220万円の慰謝料の支払いを命じる判決を下しました。

http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2011083102000182.html


平成18年、企業の法令違反について内部告発を行った労働者を保護することを目的に公益通報者保護法が施行されましたが、今後企業がとるべきスタンスを考えるうえでも今回の裁判は非常に注目を集めているものと思われます。

(※公益通報者保護法により、内部通報を理由とする解雇や減給などの不利益取扱いは禁止されています。)



最高裁の判断はでていないため断定的なことは言えませんが、この事件でそもそも問題だったのは、内部通報を受けた窓口担当者が違法行為の当事者とされる上司に対して通報の内容を知らせてしまったことではないでしょうか。

内閣府が示すガイドラインでは担当者に秘密保持を徹底させるよう記載されており、また、当該企業の社内規定においても通報者が特定される情報の開示が禁じられていたとのことです。

(※会社側はこの点について本人の了承を得たうえで上司に連絡したということですが、状況を考えた場合、本人の了承の有無に関わらず情報を開示することは、法律論を抜きにしても得策だったとは思えません。)



近年は内部通報のほか、セクハラやパワハラなど危機管理のための相談窓口を設置し体制を整える会社は少なくありませんが、担当者の情報の取扱いや相談後の対応が適切でなければ従業員の信用が得られず、結果として窓口が機能しないことになります。

今回のケースでは、会社は訴訟に関わる費用、時間、労力を少なからず浪費し、さらには企業イメージにも影響がなかったとはいえません。加えて会社の将来を真剣に考える1人の人材を失ったともいえるのかもしれません。

一方で逆転勝訴した社員も「一日も早く普通のサラリーマン生活に戻してほしい」と語るなど勝訴を喜ぶ様子はなく、とにかく元の状態に戻りたいというのが正直な気持ちだと思われます。

社内に問題となる対象事実が存在したかどうかに関わらず、通報の際の担当者の対応は、会社と従業員の両者に大きな損失をもたらしかねないということを忘れてはいけないと思います。