機能不全の再雇用制度

年金支給開始年齢の引き上げを本来カバーするための企業の再雇用制度は、現実にはうまく機能しているとはいえない状況に見えます。

平成18年、高齢者雇用安定法が改正されたことにより、建前上はほとんどの企業において60歳定年後65歳までの継続雇用が制度化されているのですが、厚労省が昨年実施した調査において希望者全員が65歳まで働ける企業は46%にとどまるというデータがあります。

多くの企業は希望者全員を65歳まで雇う余力はないと思われます。そのため労使協定を結び、定年以前の勤務成績や勤怠状況、健康状態などで一定の基準を設けて再雇用対象者を絞ります。(これは高齢者雇用安定法第9条第2項で認められています。)


実はこの再雇用の基準をめぐって労使間でトラブルになることも少なくありません。

勤務成績や勤務評価を理由に再雇用を拒否された労働者が「評価が不合理」として会社を相手取って訴訟を起こし、最終的に再雇用が認められたケースが実際にあります。

再雇用の基準ははっきりした線引きがなくあいまいなものが多いだけに、今後トラブルは増えていくものと考えたほうがいいでしょう。


そして、うまく再雇用された従業員の場合でも問題がないわけではありません。

再雇用と同時に役職がはずれ、実際は若い社員の下で雑用や単純作業などをやらされるケースもあり、嫌気がさして65歳を待たずして辞めてしまうパターンも多いと聞きます。賃金は多くの場合は従前の5〜6割くらいにダウンするため、不満が多く、「生活していけない」といった声もあるようです。



しかしながら、これまでに挙げた問題は、大概は大企業にあてはまるものです。中小零細においてはそもそも再雇用制度さえ存在しない会社がまだまだたくさんあるものと思われます。(かといって定年を廃止したり引き上げたりしてるわけでは当然ありません。)

これはもちろん高齢者雇用安定法に違反します。

ではなぜ法律が義務付ける高年齢者雇用確保措置を実施しないのか。


措置を講じなければいけないという法令自体を知らなかったという会社もあるにはあるのですが、
実はこの高年齢者雇用確保措置は違反しても罰則がありません。
企業名公表の制裁もありません。

そもそも高齢者雇用安定法は行政取締法規なので、労働者が会社に対し、措置を講じていないことを根拠に継続雇用の具体的権利を直接請求することもできません。

法令を忠実に守った会社が結局人件費負担が増えてバカを見る現状については何とかすべきであると思いますが、そもそも国が年金政策の失敗のツケを企業に押し付けることが最大の問題ではあります。



そして厚生労働省は、年金支給開始年齢引き上げへの対応策として、継続雇用に係る現行の制度をより厳格にする案を検討しているとのことです。(65歳までの定年延長の義務化は今回は見送る方向のようです。)

当然企業の反発は相当なものと考えられますが、年金70歳支給開始時代が確実にくると考えられる以上、高齢者の継続雇用に係る企業の義務が今後ますます強化されていくのは現実的に避けられないと考えられます。




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