「正社員並みパート」拡大の是非

厚生労働省で「正社員並みパート」の適用範囲の拡大が検討されているようです。パートタイマーの処遇改善を進めるのが目的で、来年の法改正を目指しているとのことです。

「正社員並みパート」といわれているのは、平成20年に施行された改正パートタイム労働法で賃金や待遇等について正社員との差別が禁止されているパートタイマー(短時間労働者)のことで、正確には「通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者」といわれます。

(※フルタイムパート・疑似パートは上記に含まれません。つまりパートタイム労働法第8条は適用されません。)


通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者を判断する基準は以下の3つです。

  1. 職務の内容が同一か
  2. 人材活用の仕組みや運用(転勤、配転など)が全雇用期間を通じて同じか
  3. 契約期間の定めがないか(反復更新で実質無期となっていないか)


日本の非正規雇用は労働者全体の4割といわれており、この法律を額面通りに厳密に運用すれば経営がたちゆかなくなる企業も少なくないと思われます。

企業側の実務的な対応としては(つまり正社員並みの処遇をしなくて済む方法)、時間外労働やクレーム処理を正社員のみとして職務内容(業務に伴う責任の程度)に差をつけたり、パートタイマーは転勤・配転なしとすればよいでしょう。また、パートタイマーはすべて有期契約にして更新していくのも有効と考えられます。

※契約更新を繰り返せば実質期間の定めのない雇用とみなされるとも考えられますが、厳格な更新手続きを行っていればそのような問題は生じません。




現在、この「正社員並みパート」に該当するパートタイマーは0.1%にとどまるといわれているようですが、今後の法改正によって上述の3要件を廃止し「合理的な理由なく不利益な取り扱いをしてはならない」とだけ定め、「合理的な理由」についてのガイドラインを示す方法に変更し、「正社員並みパート」の対象者を増やしていく方針とのことです。

通常の労働者と同視すべきパートタイム労働者の範囲は格段に広がり、これまで企業がとってきた方法では対応できなくなるかもしれません。

しかしながら、それでもこの法改正が政府の目的とするパートタイマーの処遇改善につながるとは到底思えません。

現在パートタイマーがやっている仕事に対して正社員並みの賃金を支払えるような余力は大半の企業にはありません。

そして、再雇用制度の場合もそうでしたが、パートタイム労働法についても御多聞に漏れず行政法であるため違反しても罰則がなく、企業名公表の制裁もありません。都道府県労働局長の助言・指導・勧告までとなっています。

はたして法律を遵守する企業がどのくらいあるでしょうか。


本当に同一労働・同一賃金を実現するには、職務(仕事)に対して賃金を決定し、仕事の結果である業績・成果のみを評価することが必要になります。これまで日本が大切にしてきた生活給の考え方や、熟練・習熟度・期待度に対する賃金、長期雇用の視点にたった人材育成が排除されることが予想されます。会社と従業員の関係は今よりも希薄化するかもしれません。労働市場の流動化も必要でしょう。雇用形態がこれだけ多様化した時代に、小手先の法改正は通用しません。


最近の政府の検討している施策をみていると、厚生年金の加入要件緩和にしても、高齢者雇用義務の拡大にしても、適用範囲を拡げて会社の法的義務を拡大するばかりで本当に労働者保護になるのか疑問を禁じ得ません。




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