<過労死・過労自殺> 残業時間の上限を考える

先日ワタミの社員が長時間労働による過労自殺うつ病)の労災認定を受けました。

http://www.asahi.com/national/update/0221/TKY201202210654.html

ニュースによれば、深夜勤務で時間外労働が月100時間を超え、休憩・休日も十分にとれなかったとのこと。

これは昨年末に過労自殺の認定基準(正確には心理的負荷による精神障害の労災認定基準」)が改正されたことに影響を受けていると考えられます。基準が以前より具体化され、労災認定されやすくなったものと思われます。

当初は労働基準監督署が自殺について業務との因果関係を認めず不支給を決定しましたが、遺族が不服として審査請求を行い、その間に基準が改正され、そして今回の結果がでています。今後、精神障害による労災認定はますます増加すると思われます。

過労死または過労自殺が労災認定されれば、企業の責任はより明確なものとなり、通常は認定の後、遺族から数千万円〜1億円規模の多額の慰謝料を請求されることとなります。労災が肩代わりしてくれるのは財産的損害だけであり、精神的損害は会社が金銭で補てんするより他にないのです(民間の損害保険を利用していれば別ですが)。

これだけ企業のリスクが大きくなっているにも関わらず、労働時間の管理に関しては企業の中ではまだまだ認識が全く甘い分野だとつくづく実感します。


では残業時間をどう設定すれば過労死・過労自殺の賠償責任を免れることができるのか、労働時間の留意点を含め以下ポイントをまとめます。


大前提として企業は、労使協定なしには従業員に残業をさせることはできません。1分たりともです。法定の労働時間(1日8時間・1週40時間)を超えることは許されません。ところがこの協定書を労働基準監督署に届け出ていない企業が案外多いので注意です。

時間外労働の労使協定(通称「36協定」という)に残業の上限時間を定めた場合、その範囲内であれば基本的に残業が何時間であっても違法ではありません。たとえ残業月100時間までとして協定して残業させても、それが違法とまではいえません(労基署から指導される可能性は十分ありますが)。

ただし、「労働時間の延長の限度に関する基準」という厚生労働省が定めた指針で、残業が月45時間を超える協定を締結する場合は、特別条項付きの36協定を届け出るよう定められています。特別条項なしで届け出ても、監督署はまず受け付けてくれません。

つまり労働基準法などの公法上では、36協定に定めた上限の時間を守れば、何時間残業させても違法にはならないが、月45時間までに抑えるのが望ましい、ということがいえます。


次に過労死、過労自殺等のリスクを考慮した場合、企業としては36協定の上限時間を何時間までに抑えるべきかという話になります。

過労死の労災認定基準(正しくは「過労死及び過労による脳血管疾患・虚血性心疾患の労災認定基準」)によれば、長時間労働と病気の因果関係は、残業が月45時間を超えるとだんだん高まってきて、月平均80時間(発症前2〜6ヵ月の平均)あるいは発症直前1ヵ月に100時間を超えると非常に高いという見方がされることになります。

過労によるうつ病自殺における長時間労働精神疾患との因果関係は、月80時間以上の残業は心理的負荷が「中」、発病直前の1ヵ月に160時間 or 2ヵ月に月120時間 or 3ヵ月に月100時間の残業があれば心理的負荷は「強」と評価されます。


現時点では、過労自殺よりも過労死の基準の方が会社にとって厳しいものとなっています。

これらを踏まえると、会社は可能であれば時間外協定および残業時間を月45時間以内に抑え、それでは業務が回らないというのであれば、月80時間以内に抑えるのが無難といえるでしょう。


もちろん残業の上限時間さえ気をつければ、企業の安全配慮義務がすべて満たされるわけではありません。

時間外労働が月100時間を超え、疲労が蓄積が認められた従業員から申し出があった場合は、医師による面接指導を受けさせる義務が会社にあります(労働安全衛生法第66条の8)。

上記面接指導を行っていなかった場合には、さらに企業の責任が重くなるものと考えられます。

過労死・過労自殺と併せて、

36協定を届け出ていなかった
医師の面接指導を受けさせていなかった
労働者の労働時間を適切に記録していなかった
残業代を払っていなかった

なんてことが発覚すれば、遺族から莫大な慰謝料を請求されたうえ、労基法・労安衛法違反で送検・起訴・有罪はかたいでしょう。

「労働時間を適正に管理する」
甘く見ていると痛い目にあいます。
地味なようで非常に大切です。



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