AIJからみえてくる厚生年金基金の崩壊と加入企業の倒産危機

AIJが年金積立金を2000億円ふっとばしたものだから、全国の厚生年金基金に加入している企業はみな凍り付いたようで脱退を急ぐところもあるようですが、そうなってくると今度は別の深刻な問題が発生してきます。

厚生年金基金は3階建ての公的年金制度の3階部分であり、国民年金・厚生年金とは別に基金が加入企業に対して独自に年金を支給する制度ですが、実は基金は本来政府が行う厚生年金(報酬比例部分)についても、政府に代わって保険料を集めて運用し給付するという代行業務をやっています。

全国に約600弱ある厚生年金基金はご想像のとおりどこも財政難でギブアップ寸前のところも多々あるわけですが、基金を解散したければ前述の代行部分の積立金を国に返さなければなりません。そして積立金が政令で定める一定の額を下回っている場合(これを「代行割れ」といいます)、なんと加入企業から追加で一括 or 分割で集めて支払うことになるのです。企業は長年基金に掛け金をきちんと納めてきたというのにです。

この代行割れの際に企業が支払う金額はおそらく一企業あたり億単位にもなるでしょう。現実に代行割れ部分の補てんが原因で資金不足に陥り倒産した会社が過去に何社もあります。本業で黒字を出して堅実に経営してきた会社が、厚生年金基金の運用失敗のあおりを受けて倒産なんて冗談のような話です。もうじきこんな会社が続出するかもしれませんが。

しかしまあ、冷静に考えてみると、国は国民年金と厚生年金の現在あるべき積立金のうちあわせて約800兆円を消失させてしまっているわけで、さらに2006年に150兆円あった積立金の残高は、2011年には110兆円まで、たった5年で約40兆円減らしてしまっている。AIJの2000億がかわいいものだと錯覚してしまうほどです。

つまり基金に加入していない企業の厚生年金は政府が運用しているから元本割れしようが積立金をどんなに失くそうが経営に影響なし、一方基金に加入している企業は基金が解散となれば自らの経営危機のリスクを負って身を削って積立金を補てんしなければならないという構図です。基金は担当者の8割が運用経験なしというユルユルの経営だったのにです。

分かりきっていることですが、年金の運用って他の金融・投資に比べて何でこんなにゆるいのか。まかせる相手が人間である限り年金積立金の適正な管理なんて夢物語なのか。年金制度を現行の賦課方式から積立方式に変えていくべきという議論がありますが、賦課方式でさえこの状況なのに、積立方式の場合の比較にならないくらいの莫大な積立金を官僚なんぞにまかせるのかと思うとゾッとするのは私だけでしょうか。



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