残業代抑制と事業場外みなし労働時間制

旅行会社が自社の添乗員に適用している「みなし労働時間制」が不当だとして訴えられていた裁判で、みなし労働時間は認められず、残業代を支払うよう会社に命じられる高裁判決が先日ありました。

http://www.asahi.com/national/update/0307/TKY201203070586.html


みなし労働時間制とは、現実に何時間働いたかに関わらずあらかじめ決められた時間を働いたとみなす制度です。例えばある会社において、この職種の1日の労働時間は大体10時間くらいだと決めたら、1時間働こうが15時間働こうが一律10時間勤務とみなして10時間分の賃金を支払います。

なぜこんな制度を導入するのかというと、ずっと外出している営業マンとか、デザイナーとか、専門職とか、労働時間を算定するのが難しい、あるいは業務の時間配分を指示するのが困難である職種の労働時間を適切に算定しようというのが法律の趣旨ですが、実際のところ導入する企業の大半は「あらかじめ決めた以上の残業代を払いたくない」というのが本音であることは間違いありません。

ただし、みなし労働時間制の導入率は全国的にみて高くはありません。全体の1割程度です。導入するためには労使協定などの面倒な手続きが必要なことと、導入が認められるための細かい要件がたくさんあるためです。

みなし労働時間制には、

・事業場外みなし労働時間制
・専門業務型裁量労働制
・企画業務型裁量労働制

の3つがあり、今回問題になっているのは「事業場外みなし労働時間制」ですが、この事業場外みなしを導入するための条件として

1.事業場外(会社の外)で業務に従事
2.会社の指揮監督が及ばない
3.労働時間を算定することが難しい

が必要です。

そして厳密に言ってしまえば、事業場外みなしを使っている会社の多くが、

「2.会社の指揮監督が及ばない」 と 「3.労働時間を算定することが難しい」

の条件を実質満たしていないというのが現状でしょう。

携帯電話やタブレットなどのモバイル端末が普及している現在、会社の指示が及んでいない状況というのは相当に少ないと考えられますし、営業日報や業務報告書で細かく報告させている場合は労働時間が算定し難いとはなかなかいえません(※ただし、携帯等を持たせているからイコール適用できない訳ではなく、あくまでも実態で判断されるものです)。


最近増えているテレワーク(在宅勤務)モバイルワークにも事業場外みなしを適用するかどうかの選択肢がありますが、

・始業・終業の都度、会社に連絡させているか
・勤務時間中は常に連絡がとれる状態にすることを義務付けているか
・業務について随時細かく指示を行っているか

という実態に基づいて適用の可否を判断されることになります。


今回の旅行会社添乗員の問題については、「旅程を記した指示書や日報」の存在によって、労働時間の算定は可能であるし、会社の指揮監督も及んでいるという判断に至ったようです。




残業代を払いたくない、抑制したい

要件を満たすか微妙だが、事業場外の業務 or 外出の多い業務だから、とりあえずみなし労働時間制を適用

後で労働基準監督署 or 退職した従業員から指摘され、残業代を過去に遡って支払うはめに

こんなケースが今後増加しないとも限りません。


事業場外みなし労働時間制は結果的に残業代を抑制できる制度ではありますが、それはもともと通常の方法では労働時間を正確に計算できない業務であったというだけの話です。残業代を払いたくないからみなし労働時間制という安易な考えで制度を導入するリスクをくれぐれもお忘れなく。



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