上司だけでなく部下・同僚からの嫌がらせもパワーハラスメント<厚労省・初の定義>

1月末に、厚生労働省(職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ)がパワーハラスメントの定義を初めて公表したことは記憶に新しいところです。さらに先日、同円卓会議によって「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」がとりまとめられ公表されました。

厚労省が定義を公表したことがそんなに重要なのかと感じる方もいらっしゃるでしょうが、実はこれが結構重要なのです。

セクハラとは異なり、パワハラは法令上明確な定義がありません。

例えばセクハラは、男女雇用機会均等法第11条および厚生労働省の定める指針において、「セクシュアルハラスメント」が明確に定義され、さらに企業の対策義務が定められているため、労働者はそれらに該当する行為をセクハラとして訴えることが可能であり、企業側はそれらの法令にのっとって制度を整備し、周知を図って予防対策を講じていくことが可能なのです。

(※均等法は行政取締法規であるため、実際には不法行為を根拠に加害者を、また、職場環境整備義務違反あるいは民法上の使用者責任を根拠に会社を訴え出ることになります。あるいは行政指導により、勧告・企業名公表などが考えられます。)


一方で、労働者が職場内においていじめ・嫌がらせを受けた場合にパワハラだとして加害者や会社に対して責任を追及していくことは相当にハードルが高く、また、会社側としても、どこまでの範囲が指導・業務命令として認められ、どこからがパワハラに該当するのかの線引きをすることが難しく、どのような責任を問われるのかリスクを測って対策を講じるにしても、過去の判例や労災認定事例を参考に手探りで行うという部分があり、悩ましい問題でありました。


しかしながら、このブログで何度も書いていますが、パワーハラスメントは今後企業にとって最もスタンスの問われる重要な労働問題になることは間違いありません。

昨年末、精神障害に係る労災認定基準が改正され、そしてこのタイミングで政府から初めてパワーハラスメントに関する定義と対策が発表されたことは、今後のパワハラ法制化への大きなステップになるものと考えられるわけです。


ちなみに、これまで手探りの状況のなかで使われてきたパワハラの定義と、今回厚労省から公表された定義を比較してみると

これまでの定義

パワーハラスメントとは、権力や地位などのパワーを背景にして、本来の業務の範疇を超え、継続的に人格と尊厳を侵害する行動をいう。」


今回公表された定義

「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性(※)を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。
※ 上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して様々な優位性を背景に行われるものも含まれる。」


通常パワハラというと、「上司から部下」という構図を思い浮かべますが、今回の定義では、「部下から上司」、あるいは「同僚間」のものについても含まれ、全ての従業員が加害者または被害者になり得るということが明確に示されています。

また、行為類型については

1.身体的な攻撃(暴行・傷害)
2.精神的な攻撃(脅迫・暴言等)
3.人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
4.過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害)
5.過小な要求(業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)
6.個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

とされており、これらに当てはまらない場合でもパワハラとなり得るとのこと。

そして、先日公表された予防・解決に向けた提言においては、企業・労働組合・経営者・上司・従業員・国・労使団体それぞれに期待する取組についてポイントがまとめられています。

以下参照
職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言取りまとめ |報道発表資料|厚生労働省


企業に求められるのはもちろん予防と、そして起こったときの解決です。

パワハラについて全く対策をとっていない企業は少なくないはずです。実態を把握し、方針を定め、パワハラ防止規程を作成し、相談窓口と担当者を設置し、周知・教育し、対処ルールを決めて、適正に制度を運用する。国の制度が動きだしている今こそ、対策を始める絶好の機会ではないでしょうか。




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