退職時に有給休暇をまとめて消化したいと言われたときの対応

退職することが既に決まった従業員から年次有給休暇をまとめて申請されたとき、会社はどう対応するべきか。

例えば有休がまるまる40日(つまり2年分)未消化で残っていれば、仮に労働者が30日前に退職を申し出ていたとしても、退職日までの労働日を全て有休にあてることが可能ですから、有休申請した日以降労働者は1日も会社に来ることなく退職日を迎えることができるわけです。

辞める前にきっちり引継ぎをやってもらいたい会社としては何とかしたいところです。会社は「事業の正常な運営を妨げる場合」に限って「時季変更権」を行使できるとされていますが、これは変更できる労働日が他にあることが前提であり、退職日を越えての時季変更は不可能ですから、この場合会社は打つ手なしのお手上げ状態ということになります。

要するに労働者から退職の際に有給をまとめて請求されたら会社は法的に拒否できないのです。


会社にとっては引継ぎをきちんと行わせることが第一の目的と思われますから、この点から以下に方策を考えてみます(辞める人間に有休を利用されるのは癪に障るとか、最後の最後まで無駄なくみっちり働かせたいという場合は残念ながら諦めるしかありません)。


まず、労働者が退職する際の引継ぎ義務を就業規則に明記し、さらに引継ぎ義務を果たさず事業運営に支障を生じさせた場合の退職金の減額・不支給規定を退職金規程に明記します。

労働者が退職する際の引継ぎは信義則上の義務と考えられますが、就業規則等に定めることによって労働契約上の義務としてはっきりさせるためです。

ただし気をつけたいのは、引継ぎ義務を履行しなかった場合の労働者の責任の追及については、実はなかなか難しいところがあります。引継ぎが一切なされなかった場合には損害賠償の請求が可能とも考えられますが、実際には会社の損害と引継ぎ義務違反との因果関係や損害額について会社が立証しなければならず、法的な追求は現実的には難しいと考えられます。

退職金についても現実に不支給にした場合には不当と認められる可能性が高く、引継を行わなかった悪質性や重大性、会社の損害等を考慮して若干減額するのが精一杯だと思われます。規定を根拠に従業員と話し合って引継ぎを促し説得を試みるのがベストと考えられます。

話し合いの過程では、有休の買い取り提案も併せて行うのがよいと思われます。

ただし、有休の買い上げ自体は法律上禁止されており、あくまでも有休消化予定だった労働日について有休を使わずに出勤して引継業務を遂行してもらい、その結果として退職日までに消化できなかった日数分を会社が買い取るという合意をすることになります(※退職時点で未消化分の有休の買い上げは例外的に認められています)。


どうしても労働者が話し合いに応じず、有休をとって引継ぎがなされない場合はどうするか。

最後の手段です。

休日に出勤させて引継ぎをさせるしかありません。休日はそもそも労働義務がない日であり、有休を取得することができないのです。従業員も休日出勤命令には従うしかありません。

その場合、

就業規則に休日出勤の規定がある
・36協定を届け出ている
休日労働割増賃金の支払いが必要である

これらが前提となりますのでご注意ください。