6時間労働で午後3時に定時退社

アパレルのインターネット販売で業績を伸ばしている「ゾゾタウン」の運営会社が、従業員の労働時間を大幅に短縮する改革を行ったとのことです。

以下参照
6時間労働で午後3時に定時退社。そんな会社は、果たしてうまくいくのか?


朝9時に始業。昼休憩なしで6時間いっきに働き、何と午後3時に終業という画期的な労働時間制度です。まだ夕方にもなっていない15時に退社できるとは、特に多趣味な従業員にとっては魅力あふれる制度ではないでしょうか。長時間労働と過労死がますます問題化している昨今、時代の流れを変える素晴らしい取り組みだと思います。


当該企業では所定労働時間を現行の7時間半から6時間に減らすにあたって、業務を効率化すべく様々な取組を行っているようですが、労働法の観点から注意すべき点はいくつかあると思います。


本文では触れられていませんが、労働時間が短縮される場合にまず考えるのは、賃金の時間単価が変わるのかどうかという点です。

時間単価が変わらないまま所定労働時間が短縮されれば月例給与が当然下がりますから、労働条件の不利益変更にあたります。業績の悪化している企業のパートタイマーなどがよくシフトの日数や時間数を強制的に減らされるのを想像できると思います。

しかし、今回の施策は企業イメージのアップ、優秀な人材の確保、従業員のモチベーション向上などが目的と考えられますから、おそらく労働者の不利益となるようなことはせず、月給者に関していえば基準内賃金を変更せずに所定労働時間を短縮する、つまり結果的に時間単価が上がるものと考えられます。

他方、時給者がいる場合には、時給を1.25倍に変更しなければ、これまでの月例給与水準が確保されないことになってしまいます。

さて、本文では

何より大きいのは社員のモチベーションではないかと思います。6時間労働で午後3時に仕事が終われば、夕方の時間を有効に使えます。このメリットを失いたくないと思えば、業績を悪くしないように必死に働くはずです。

とありますが、これはなかなか難しい問題です。というのも、今回の施策のように労働条件を労働者の有利になるように引き上げる際には法的に何の制限もありませんが、例えば労働時間の減少によって生産性が下がり業績が悪化したからといって、労働時間を以前のように戻すことはそう簡単には許されません。いったん所定労働時間を6時間とした労働契約の内容を、会社の一方的な意思で7時間半に戻すことは不利益変更にあたりますので、厳しい要件の充足が求められます。仮に従業員が早く退社できるというメリットに固執せず、会社の思うように必死で働かなかったとしても、それを理由に与えたメリットを取り上げることは容易ではないのです。

つまりこの施策は、会社としては後には退けない、非常に勇気のいる画期的な制度改革なのです。



また、所定労働時間を6時間に短縮すれば、6時間を超えた労働は時間外労働(法定内残業)になります。業務の効率化がうまくいかず、結局夕方の5〜6時まで従業員が会社に残っていれば、その分の残業代がまるまる人件費増になります。

このリスクを担保するため、制度導入時にあわせて、法定内残業について賃金規定に別途賃金額を定めておくか、あるいは定額残業代を設定するべきであると思います。



ちなみに労働基準法では、労働時間が6時間以下の場合には休憩を与えなくてもよいとされているので、今回のような制度が可能ですが、15時以降残って残業をさせる場合には30分の休憩をとらせ、トータルの労働時間が8時間を超える残業の場合にはさらに15分の休憩をとらせなければならないことに注意が必要です。



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