期待外れの中途採用者を能力不足を理由に解雇できるのか
採用面接の際に本人が自己申告していた能力・スキルが実際のものとかけ離れていて処遇に困っているというのはよく聞く話です。
企業が中途で従業員を採用する際には即戦力となる経験や能力を求めるケースがほとんどです。ときには課長、部長クラスの幹部候補を採用する場合もあります。
一般的に能力不足を理由として労働者を解雇することは簡単に認められません。非常に厳しい基準の解雇回避努力が求められることになります。何度も指導・教育を繰り返し、それで駄目なら職種や部署を変えるなどして能力開発に努め、どうしても厳しい、業務に支障がでるといった場合に初めて解雇の可能性を考えるというレベルの話です。
では一定の能力があることを前提として採用された中途採用者の場合はどうでしょうか。
新卒採用や第二新卒、あるいは経験の浅い従業員の採用ならばそもそも能力もスキルも高くないことが分かったうえでのポテンシャル採用ですから、企業の方で教育を十分に行わずに解雇することは適切でないという考えも理解できますが、即戦力のキャリア採用、専門能力を要求されたスペシャリスト採用、一定の地位・ポストを特定した管理職採用であれば、そこまで企業に解雇回避措置を求められるのは正直厳しいところだと思われます。
実際にこれらの場合であれば、通常の能力不足を理由とする解雇に比べ、多少は認められやすいといわれています。
有名な判例とされるフォード自動車事件では、以下のように判断されています。
外資系会社の最上級管理職のひとつである人事本部長の地位を特定して中途採用された従業員に対し、就業規則の解雇理由である「業務の履行又は能率が極めて悪く、引続き勤務が不適当と認められる者」を適用して解雇するには、他の職種または下位の職位に配置換えをするまでもなく、人事本部長という地位に要求された業務の履行または能率がどうかという基準で検討すれば足りる
通常の解雇よりも解雇回避努力の要求される程度は低いと考えられます。
とはいえ解雇が厳しいことに違いはないと考えておいた方がよいでしょう。企業のとるべき対策としては、雇用契約書において
一定水準の能力・スキルが前提であること
地位・職種が特定された契約であること
それらに応じて一定の業務の履行、業績目標等が要求されること
適格性がないと判断された場合には退職を求めること
以上をできるだけ具体的に明記し、内容について十分に合意しておくことが必要と考えられます。
また、場合によっては最初の契約を有期雇用契約としておくことも有効といえるでしょう。
なお、解雇の通告を行う前にまず退職勧奨によって合意退職を試みた方がよいのはいうまでもありません。
関連記事