事業主があっせんに応じることにより労働審判を回避するメリット

労働トラブルが起こった際に最も重要なことは冷静さを失わないことです。

オーナー企業の場合は特に顕著だと思いますが、労働者が会社に対し何らかの具体的な措置を講じてきたときに事業主側が「雇ってやったのに恩を仇で返された」とばかりに感情的になり、徹底抗戦の構えをみせることが少なからずあります。

しかし、労働事件において、徹底抗戦して会社にとってプラスになることはまずありません。できることなら多少妥協してでも早急にカタをつけてしまう方がはるかにいいといえます。


労働者が講じる手段の1つに、労働局の行う「あっせん」という話し合いの手続き(裁判外紛争解決手続き)がありますが、労働者があっせんを申請した場合の会社側の参加率はかなり低いといわれています(大体6割くらい)。両者の参加によってあっせんが開始されたとしても、和解に至る確率もまた低いのが現状です。これは、あっせんへの参加が原則自由であること、そしてあっせんを取り仕切る「あっせん委員」に裁判官のような判定を行う権限が与えられていないことに起因します。


「どうせあっせんに強制力はないのだから積極的に話し合う必要も、譲歩する必要もない。」

と会社が考えるのも理解はできます。

ただし、ぜひとも注意したい点があります。


あっせんを申請する労働者の多くは、その先の労働審判を見すえた上で行動しています。そして、労働審判申立書には、それまで当事者間においてされた交渉その他の経緯を記載することになっています。労働者は当然そこに、事業主があっせんに応じなかった事実を記載し主張してくるでしょう。

つまり、労働者は紛争を解決すべく和解に向けて努力をしたが、会社側が誠意をもって対応しなかったために労働審判の申し立てに至ったという判断材料をもとに労働審判委員会が心証を形成してくる可能性も十分に考えられますし、さらにその後の本訴に影響を及ぼす可能性も否定はできないのです。


また、現状ではあっせんにおいて合意に至った場合の解決金の金額は低水準となっていますが、労働審判に進めば法的争点が明確にされ判例を踏まえたうえで審理が行われることになります。これはつまり、あっせんのときよりも会社にとって不利な結論になる可能性が高くなることを意味します。あっせんの段階で和解に応じていれば30万円の解決金で済んだところ、労働審判に進んだ為に100万円を支払うはめになったというような話は決して珍しくないのです。



もちろん会社側が「とにかく譲歩をして和解するつもりはない、費用がかかってもいいからどうしても白黒はっきりつけたい。」という考えをもっているのであれば、無理にあっせんに参加する必要はないかもしれません。むしろ全く譲歩をする意思がないのにあっせんに参加することはかえって不誠実な行為とも考えられます。

一刻も早く紛争を収束させ本業に専念したい、和解金額を抑えたいという場合には会社側も譲歩の姿勢をみせて話し合いに応じることこそ実はメリットがあるということがまだまだ理解されていないように感じます。