「外資系は簡単にクビ」を安易にマネすべきでない

最近、興味深いブログの記事を読みました。「外資が簡単にクビにできる理由」についてです。

「どうして外資系企業は日本の企業と同じく労働基準法が適用されているのにクビにできるのか」という多くの方の疑問に対し、外資系の給与は担当する仕事内容によって決定する職務給が採用されており、「職務内容を限定して採用し、その職務を担えないことが明らかな場合の解雇は解雇権濫用とはならない」と裁判所において判断される為、外資系企業が日本国内でクビを切っても違法とはならないのだと説明されています。


この説明は一部当たっていると思います。ただしこれだけを鵜呑みにして職務給制を採用し、求める能力に達していないと判断した従業員を遠慮なしに解雇していくのは危険です。ポイントは2つあります。



第一に、そもそも外資系企業は法律上の解雇に該当する行為をそんなに頻繁に行っているわけではありません。

かつて日本の労働法制をきちんと理解していない外資系企業が日本で解雇を乱発し紛争に発展するということがよくあったようですが、現在では日本の解雇規制の厳しさを外資系もよく理解しており、余程のことがない限りリスクの高い解雇は行わないと思われます。

外資系がすぐクビにするというのは、非常に強力な退職勧奨を行うということであり、労働契約の終了を一方的な意思によって通告する解雇という形式ではなく、何が何でも相手の退職の合意を取り付ける「合意退職」にもっていくのです。(※違法な退職勧奨を行っている外資系企業は少なからずあると思われますが。)

該当の労働者を呼び出し、戦力外通告を行い、おとなしく退職合意書(あるいは退職願)にサインすれば割増退職金と再就職支援を約束、合意しないなら退職金は1円も支給されずに解雇、と迫ります。もちろんこの場合の解雇は根拠のある正当なものだと主張するでしょう。

この場合の退職勧奨は、相手の人格を傷つけるような言葉を口にしたり、根拠のない解雇の可能性をほのめかしたり、あるいは威圧的に脅すなどの悪質な行為がなければ、多少しつこく勧奨を繰り返したとしても即違法ということにはならないと考えられます。



第二に、担当職務を明確に限定して採用したとしても、その後の能力不足による解雇が必ずしも認められるというわけではありません。

確かに過去の判例から、特定の地位や職種を前提に高い能力を期待されて入社したキャリア採用・管理職採用などであれば、通常の年功制(職能給制を含む)の新卒採用等の労働者に比べ、会社側に求められる解雇回避努力の程度は緩やかであるとされています。

この点日本型の職能給より職務給を運用した場合の方が能力不足による解雇が認められやすいといえなくもありません。ただしこれは、解雇を行う前にまず他の職種や下位の職位へ配置換えをするほどの義務までは負わないということであり、指導・教育を含めた解雇回避措置自体が全く必要とされないということではありません。

さらに会社側は、労働者が担当職務を担うほどの能力を有していない点について主張・立証責任を負いますし、採用にあたってはかなり細かく条件面を書面化したうえで内容について十分に合意しておく必要があります。

日本の解雇に対する規制は本来それほどまでに強いのだということを、特に労務管理面がまだまだ未整備だという企業は誤解のないよう正しく認識すべきであると思います。



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