<65歳まで全員雇用>改正高齢者雇用安定法の問題点

昨日、60歳定年後の希望者全員を65歳まで雇用することを企業に義務付ける「改正高齢者雇用安定法」が衆議院厚生労働委員会で可決されました。来年4月からの施行という事で成立する見通しです。

http://www.sankeibiz.jp/econome/news/120801/ecc1208011622001-n1.htm


この法改正が若年層の昇給抑制、新規採用の抑制につながるであろうと考えられることは以前の記事で書いた通りです。

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さて、気になるのはニュース記事のこの部分です。

 ただ、健康状態や勤務態度が極端に悪く就労に支障をきたすなど、就業規則の解雇事由に該当する労働者は継続雇用の対象から外せることを明確化した。

希望者全員を65まで継続雇用といっておきながら、健康状態と勤務態度が悪い労働者は例外的に対象からはずすといっています。


そして、昨日可決された法案の修正案の抜粋がこちらです。

3 厚生労働大臣は、第一項の事業主が講ずべき高年齢者雇用確保措置の実施及び運用(心身の故障のため業務の遂行に堪えない者等の継続雇用制度における取扱いを含む。)に関する指針(次項において「指針」という。)を定めるものとする。


希望者全員を原則とする継続雇用の対象から外すということは実質解雇に相当する行為です。

健康状態、心身不調を理由とする解雇、勤務態度不良を理由とする解雇は通常どこの会社でも就業規則に普通解雇事由として規定されているものであり、会社がその規定を根拠に解雇を行い、労働者が不服として訴えを提起した場合は、司法の場において解雇権濫用法理に基づき解雇の有効性が判断されるものです。その法理が労働契約法第16条によって明文化されています。

今回、解雇に相当する基準を行政の長である厚労大臣が指針で定めるといっていますから、労契法第16条の解雇権濫用法理の規定との関係や、司法判断とのバランスなど今後どうなるのか具体的な指針の内容が気になります。

現行では定年後再雇用の選定基準は労使双方の合意に基づく労使協定によって定められていますが、はっきりした線引きがなくあいまいな基準が多い為に労使間のトラブルが絶えません。

人件費の増大を恐れる企業にとっては継続雇用の例外規定はありがたいところでしょうが、指針の定め方や運用いかんによっては、再雇用がらみの労働トラブルがまた増加するのではないかと懸念されるところです。



それにしても法律を改正する以前に、そもそも60歳定年後の再雇用義務があることすら知らない企業や労働者がいまだ存在するのですが、その状況を政府はきちんと認識しているのか、その点こそまず第一に問題ではないのか、と思う訳でありますが。



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