「我が社にタイムカードは不要」はアリなのか

某婦人下着メーカーでは、社員の出退勤を管理するタイムカードがないという記事です。

http://sankei.jp.msn.com/west/west_economy/news/120701/wec12070118000006-n1.htm

一部引用

『遅刻早退私用外出のすべてを社員の自由精神に委ね、これを給料とも、人事考課とも結びつけない』

 それからである。職場の雰囲気が一変し、皆一生懸命に働くようになったという。

以来、今日に至るまでタイムカードがない。約50年前にできた「相互信頼の経営」は、いまも脈々と流れている。

 新入社員の中には、タイムカードがないことに驚く社員もいるが、それだけに、かえって自ら時間管理しなければという気持ちになるそうだ。やはり、自主的な“やる気”を引き出すのは、「性悪説」より「性善説」のほうが効果が大きいようだ。

 「タイムカードがないのは、経営者と従業員、上司と部下、同僚同士が互いに信用しようとする思いを持っていることの証。こうした信頼が、従業員の仕事へのモチベーションの維持にもつながっている」(広報部)と話している。

従業員を信じてタイムカードをつけないという姿勢は素晴らしいことですが、いちおう誤解があるといけないので書いておきます。



まず大前提として、タイムカードをつけるかどうかはともかく、事業主には労働時間を必ず把握する義務があります。

これは出退勤時刻や遅刻・早退・私用外出などを労働者に委ねるかどうかにかかわらず、また、時間外・深夜割増賃金を労働者の申告通り全て支払うかどうかにかかわらずです。

労働時間を把握・算定する目的は、給料を計算する為だけではないからです。



根拠となる法令は以下です。


「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」

この通達では、労働時間数が何時間かというだけでなく、始業時刻、終業時刻がそれぞれ何時なのかまで会社が把握する義務があることが明確に定められています。

また、労働時間の記録の方法については、管理者が現認して直接記録するか、タイムカード・ICカードなどの客観的な記録(勤怠管理システムを含む)によるのが原則であり、自己申告による記録は例外です。仮に前述の会社が労働者の自己申告によって記録しているのであれば、実際の労働時間と合致しているのかを必要に応じて実態調査する義務があります。

また、この通達によれば、労基法上の「管理監督者」と「みなし労働時間制」の対象者に関しては労働時間把握義務はありませんが、健康確保の目的から適正な労働時間管理を行う義務があるとされており、また、裁量労働制の対象者については、労働省告示第149号」によって、どの時間帯に何時間くらい在社していたか出退勤時刻あるいは入退室時刻の記録によって把握すべきとされています。

ですから労働時間把握算定義務のない管理監督者・みなし労働時間制の対象者についても、結局はタイムカードなど一般の労働者と同じ方法によって記録をとることが現実的なのです。



さらに

労働基準法第108条においては、すべての労働者について賃金台帳を作成する義務が規定されており、その中の項目として労働時間数、時間外・休日・深夜労働時間数がありますから、この条文からも会社に労働時間把握義務があることは明白です。



なぜこのように会社が労働者の労働時間を把握・管理する必要があるのかといえば、会社は労働者の生命、身体の安全、そして健康を確保するという公法上・私法上の義務を負っているからです。労働者の申告を信じるかどうか、時間管理を労働者に全て委ねるかどうかということは全く別の問題です。

もちろん前述の会社も、タイムカード以外の何らかの方法によって労働時間を管理しているはずだと思いますし、残業時間については残業申請書・記録簿などによって別途管理することが可能です。

仮に労働時間を把握せずに問題が生じた場合、例えば労働者が虚偽の申告をしていた場合(長時間残業をして全く申告しないなど)、発覚すれば会社の責任が問われます。未払い残業代を請求される事案や、長時間労働による過労死について会社の管理責任が争われる事案では、会社がいかに適正な労働時間管理を行っていたかが重要になります。

くれぐれも冒頭の記事を読んで、「労働者に全て任せれば労働時間を把握する必要はない」などと考えないようご注意ください。



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