日々紹介のリスク・問題点を解剖

改正派遣法の施行がいよいよ来月1日からにせまってきました。今回は「30日以内の日雇い派遣禁止」という人材派遣業界にとって大打撃となる法改正が含まれる為、人材派遣会社および日雇い派遣を常用的に利用してきた企業は日々対応に追われ、対策を練りに練ってきたものと思われます。

日雇い派遣に代わる手法として以前から打ち出されている「日々紹介」というシステムがあります。今回の派遣法改正にあたって多くの派遣会社はこの日々紹介を切り札に考えている状況のようです。実際、厚生労働省日雇い派遣から日々紹介への移行を推進してきた経緯もあります。

さかのぼれば自民党政権時代に日雇い派遣禁止が議論され始めた頃から日々紹介が注目され、一方で問題点も数多く指摘されてきているシステムです。



日々紹介の仕組みは簡単に言えば、1日単位で人材を求人企業に紹介し紹介手数料をもらうという有料職業紹介事業です。

すでに散々言われていることですが、派遣との大きな違いは求人企業が雇用主になること、人材を手配する会社は単なる紹介者でしかないということです。派遣だったら求人企業は全てを派遣会社に丸投げし、定期的に手数料を振り込むだけで済んでいたわけですが、雇用主になるという事は、面接、採用、契約書、労働者名簿、就業管理、給与支払まで全て自社で行い、そして何より安全衛生上の責任、労災や労働トラブルまで使用者としての責任は全て求人企業が負うこととなります。紹介会社は全く雇用上の責任を負わないのにです。

しかも臨時日雇い形式で「日々」紹介するわけですから、即日すべての手続きが完結しなければなりません。1日単位で延べ人数分の労務管理、勤怠集計、給与計算、口座設定などの処理が発生します。日雇い労働者からは日払い・週払いのニーズが強いため、短期間で給与支払を行える体制が必要になります。

そこで人材会社は紹介に加えて、それらの労務管理代行サービス・システムをパッケージで売り出し(※過去記事を参照)、派遣のときと変わらない手数料を稼いでいこうと考えているわけです。
(※今後自社が雇用主になり、事業主責任・労務リスクが増大し業務負担が増えるにもかかわらず、手数料が派遣のときとあまり変わらないという事であれば明らかにおかしいともいえますが。)



今後、日々紹介については次のような弊害が考えられます。

●求人企業が日々給与を支払うのは体制面・コスト面で難しいので、紹介会社が派遣のときと同じ感覚で賃金を立て替え払いしてしまう。(※これをやれば職業安定法44条で禁止されている労働者供給事業に該当する可能性が高い)
●本来、雇用主である求人企業が面接・採用を行わなければならないところ、日雇い派遣の場合と同様にメールや電話で採用業務が行われてしまう。
●労働者視点からみると、雇用主が日々変わる可能性があり、その都度履歴書を提出して面接を受け、給与の受け取りも会社ごとにルールが異なるので、生活がより不安定なものとなる。
●日々紹介といいながら毎日紹介が行われずに実態は継続して働かせられる。
●仕事の説明が不十分で結果的に港湾運送や建設などの禁止業務の紹介が行われる。
●一定期間雇用しているにもかかわらず社会保険に加入させない。


政府が日々紹介を推進した理由は、派遣に比べて雇用主責任の所在が明確になると考えられるからです。そう、法律にそって適正に運用される限りは、日々紹介は確かに使用者責任のあいまいな日雇い派遣よりも優れたシステムといえなくもありません。適正に運用されればなんですが。

勘のよい方であれば感じると思います。法的には違うシステムを使っても、実態は日々紹介は日雇い派遣と変わらない運用をせざるを得ないでしょう。日雇い派遣という法形式は今後禁止されますから、つまり有料職業紹介事業の名のもとに労働者供給事業が行われていくという事になります。


これまで派遣を使っていた求人企業は、今後の労働局の指導方針等も考慮しつつ冷静に考えなければなりません。以下、日々紹介に係る行政指導例および裁判例です。

労働新聞 7月27日 第2738号
有料職業紹介 常用を「日々紹介」と偽る――栃木労働局が職安法違反で指導

労働新聞 7月16日 第2881号
有料職業紹介会社 求人手数料の返還命じる――宇都宮地裁大田原支部



個人的見解ですが、端的にいうと日々紹介は利用する企業側にとってリスクがあるシステムであることに間違いはありません。


・ 何としても「日々紹介は安全・有用な仕組み」であることを強調したい人材会社

・ そんな人材会社に日々紹介のシステムやノウハウを売りたいコンサル会社

・ 「いや、このシステムはどう考えても問題とリスクが多くてキナ臭い」と考える一部専門家

・ 何か不安で100%の信頼はおけないが、スポット人材がどうしても必要なので引くに引けないクライアント企業

・ 「適正に運用されれば問題ない」と言って実態から目を背けたい政府


という構図に見えてしまうのは私だけでしょうか。




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