高年法改正 違反企業の企業名公表で何かが変わるのか

65歳までの全員継続雇用を義務付けた今回の高年齢者雇用安定法の改正点の中に、義務違反企業に対する「企業名の公表」というものがあります。

これまで違反企業に対しては、行政当局による助言・指導・勧告までしか行われず、実態は違反企業だらけだったのですが、それが今回の法改正で企業名公表を規定することによって、制度の実効性を確保する狙いです。

一般的に企業は名前を公表されることを嫌がります。指導や勧告をのらりくらりとかわしていた会社も、さすがに新聞に違反企業として名前が載ることにでもなれば平気ではいられないでしょう。



でも実際のところ、企業名公表を規定することによって現実的に何か大きな影響はあるのでしょうか。

端的に言って大きな影響があるとは思えません。



企業名公表は、罰則の強化とよくいわれていますが、高年法は刑罰法規ではなく行政取締法規なので、正確には罰則ではありません。行政指導、あるいは制裁という位置付けだと考えられます。

公表の具体的方法は、厚生労働省のウェブサイトに載せる方法と新聞に載せる方法がありますが、実際にはほぼ厚労省ウェブサイトに載せる方法でしか公表されていません。

そして今後どのような場合に企業名が公表されるのか確実なことはわかりませんが、よほどのことがない限り公表されることはないと想定されます(※法律上は勧告に従わなかった企業について公表できる定めになってはいますが)。

なぜかといえば、まず第一に、企業名公表を規定する法律は、男女雇用機会均等法、労働者派遣法、育児・介護休業法など多々ありますが、あまり公表された例を聞きません。育児・介護休業法などは遵守してない企業が山のようにあるはずなのにです。企業名公表は現実には異例中の異例といえるくらい珍しい措置なのです。

第二に、今回の改正法施行後(来年4月以降)、法令に従わず高年齢者雇用確保措置を実施しない違反企業は、特に中小企業においては、まだまだ少なくないはずです。いまだに改正前の旧法の高年齢者雇用確保措置すら知らない経営者も少なくないのが現実です。そのような状況の中で監督行政が全ての違反企業を公表していたらきりがありません。



先ほども書きましたが、高年法は行政法規であり、企業が雇用確保措置をとっているかどうか、つまり継続雇用制度を導入しているかどうかが問題となります。大雑把な言い方をすると、制度を運用しているのであれば、その制度の設計や構造、運用方法に多少問題があろうが行政がとやかくいう問題ではないということになります。

逆に措置をとっていなければ行政指導を行うわけであり、その行政指導の中で一番厳しい指導方法が企業名公表だという事です。例え企業が雇用確保措置を全くとっていなかったとしても行政指導以上の事はできませんし、刑事罰を受けるわけでもありません。

まして、定年後再雇用をしてもらえなかった労働者が企業に対し再雇用を直接請求できるわけではありません。企業は継続雇用制度を導入する義務があるのであって、私法上労働者を継続雇用する義務を負っているわけではないのです。

極論を言えば、改正高年法に違反してもせいぜい勧告で、企業名が公表されるのはレアケース、逆に改正高年法を順守し就業規則に再雇用制度を規定してしまったが為に全員65歳まで雇用する私法上の義務が生じ、人件費が増大して致命傷を負うというような構図も考えられるわけです。


個人的にはそのような真っ当な事業主が損をして、法に従わない企業が得をするような結果にはならないで欲しいと願っていますが、これまでの行政のスタンス、そして現状の企業の認識を見る限り、今回の企業名公表という法改正によって何かが変わるとは到底思えないのです。




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