業績改善プログラム(PIP)を使った解雇は日本では通用しない模様

外資系企業がリストラのためによく使うと言われる「業績改善プログラム(「Performance Improvement Program」通称:PIP)」という手法があります。

退職勧奨に応じないリストラ対象の社員に対して目標を与え、面談を繰り返して達成状況を確認しながら指導を行い、業績改善を図っていくという建て前で、実態は合法的な退職勧奨の域を越える圧力を労働者に与え続け、強引に自主退職の方向にもっていくというものです。

通常、与えられる目標は達成不可能と思われるハードルの極めて高いものであり、達成できなければ強く責任を追及されますし、仮に目標を達成できたとしても次々と困難な目標が提示されます。業績改善プログラム(PIP)はいったん始まったら、おそらくターゲットの労働者が会社を辞めるまで終わりはありません。

意地でも退職勧奨に応じない労働者に対しては、一連の指導・教育の過程を解雇の要件である「解雇回避努力」の事実として利用することにより、会社が一方的な解雇に踏み切ることもあり得ます。



先日、次のようなニュースがありました。
http://www.sankeibiz.jp/compliance/news/121005/cpb1210051939008-n1.htm

判決によると、男性は(中略)週1本の独自記事や、月1本の編集局長賞級の記事などを要求する「業績改善プラン」に取り組むよう命じられた。

 同社は22年8月、記事本数の少なさや質の低さを理由に解雇したが、光岡裁判官は「労働契約の継続を期待できないほど重大だったとはいえず、会社側が記者と問題意識を共有した上で改善を図ったとも認められない」と指摘。「解雇理由に客観的な合理性はない」と判断した。

記事によれば、「月1本の編集局長賞級の記事」を業績改善の目標として与えられたようです。その過程で指導が繰り返し行われたのか、あるいは退職強要行為はあったのか等は記事からは一切不明ですが、最終的に目標が達成されなかったと判断され、能力不足を理由に解雇されたようです。


日本においては、能力不足や勤務成績不良を理由とする解雇はほとんど認められません。能力不足などが重大なものであり、実際に業務に支障がでていて、指導・教育を繰り返し行ったにもかかわらず改善しなかったことが前提になります。解雇は最後の手段として行使されなければならないからです。

会社は指導・教育の事実を立証するだけでなく、能力が平均より著しく劣っていること、どんなに指導・教育をしても向上の余地がないことを証明しなければなりません。

上記の記事でいえば、「月1本の編集局長賞級の記事」を書けなかったことをもって能力が平均より著しく劣っているとは到底いえませんし、それが雇用を継続しがたい重大な事由になるはずもありません。

いくら指導・教育を繰り返したと言ってみても、目標があまりにも高すぎて、能力向上の余地が本当にないのか判断つきませんし、それで「解雇回避努力が尽くされた」と主張したところで無理があり過ぎです。



勤務成績下位者を毎年一定数リストラすることによって新陳代謝をはかり続ける外資系企業にとって業績改善プログラム(PIP)は必要不可欠なんでしょうが、日本で解雇要件を満たす目的で使ったとしても期待する効果は実際得られないことがよくわかるニュースだと思います。




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