固定残業代を運用していても違法は違法

今月は11月なので毎年恒例の「労働時間適正化キャンペーン」が実施されています。この時期は労働基準監督署が残業代不払いについて結構厳しく取り締まります。多くの企業が是正勧告を受けて支払いを命じられることになります。


そんななか、先週こんなニュースがありました。

http://www.sankeibiz.jp/econome/news/121115/ecd1211151508000-n1.htm
大阪労働局が人材派遣大手の残業代不払いについて家宅捜索を行ったとのこと。

まあ、最近はよくあるなと感じるところでしょうが、注意をひかれるのはここです。

従業員の中には月100時間を超える残業をさせられていたにもかかわらず、実際の残業時間とは関係なく、固定給と月数千〜数万円の定額手当しか支払われていなかったという。

毎月固定の定額残業代のみが支給され、それ以上の差額は支給されなかった為に労働基準法違反として強制捜査を受けたようです。(※派遣法違反や行政指導に従わなかったなどの経緯もあるようですが。)

ただ、実際こんな会社、世の中に山ほどあるのではないでしょうか。



最近は残業代に対する企業側の意識もだいぶ変わってきているように思います。従業員からの未払い残業代請求が増えてきており、対策を真剣に考える企業は実際に多いでしょう。

そして、何とか人件費を抑えつつ対策を講じたいという企業に対し、多くの社会保険労務士コンサルタントは、みなし労働時間制と併せて「固定残業代」を勧めてくるはずです。(「みんな管理監督者にしてしまえ」などというひどいコンサルは最近はあまりいないと思います。)

残業は多いのだが残業代の原資が十分にないという企業にとって、固定残業代を運用するという選択肢は事実、得策といえます。

しかしながら、忘れてはならないのは、実際に残業した時間数による残業代が定額残業代を超える場合には、その差額をその都度必ず支払うという運用です。これをしなければ、そもそも固定残業代という手法自体が労働基準法違反、違法、法的に認められない、ということです。


前述の事件でいえばニュースを読む限り、監督行政としての臨検調査という軽いものではなく、司法警察権の発動としての捜査であるものと思われます。今後、書類送検、起訴と続くでしょう。

固定残業代を支給していても運用が違法だとここまでやられてしまう可能性があるわけです。甘くみてはいけません。

差額を支払う以前の話として、労働時間をまともに記録すらしていない会社もまだまだありますが、これはもう論外です。



なお、固定残業代が他の賃金と明確に区別されていない運用は、これも違法です。「基本給・手当に含まれている」というような運用は全く話になりません。

また、固定残業代の導入時の不利益変更について従業員の個別同意をとるべきなのはいうまでもないのですが、変更について通知をきちんと行っていれば同意をとっていないからといって即違法という話にはなりません。ここは労基法云々ではなく会社と従業員の権利義務等の契約関係、不利益変更法理の話に移っていくところです。




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