解雇予告と同時に休業命令はアリなのか

会社が労働者に対して解雇を通告する場合には、30日前に予告するか、または30日分の平均賃金を解雇予告手当として支払うかのどちらかが必要なのはよく知られています。

実務上は解雇予告手当の支払いを選択する方が圧倒的に多いかと思います。

ところが、この解雇予告手当の支払いを会社が渋って、解雇予告と同時に退職日までの休業命令を通告し、平均賃金の60%のみを休業手当として支払って済ませようとするケースをたまに聞きます。

こういう運用は違法ではないのかと聞かれることがありますが、結論を先に言うと、これは違法ではありません。

もっと正確にいえば、労働基準法には違反せず、従って労基法上の刑事責任を追及されることはないという事です。



ここで気を付けなければならないのは、民事上の責任は別で考える必要があります。会社都合による休業期間の手当をいくら支払う義務があるのかは会社によって異なります。

具体的には、会社と労働者との契約関係、つまり就業規則がある会社は就業規則において、就業規則のない会社は雇用契約書において、「会社側の事情で労働者を休業させた場合には平均賃金の6割を支払う」旨が規定されていれば6割の支払いで済みますが、規定が一切なければ会社は休業期間の賃金を100%全額支払う義務が契約上あります。(※休業手当の詳細は過去の記事を参照)

ただし、この件(60%か全額かという件)については労働基準監督署が動くことはありませんので、労働者側は不服であれば会社との話し合い、あるいは裁判や労働審判などの手段によって請求する必要があります。



また、会社側のメリットとして他に考えられるのが、休業を命じられた期間について労働者は未消化の有給休暇が残っていたとしても取得できないという事です。

年次有給休暇とは労働義務のある日について労働を免除するものであり、そもそも労働義務のない日(休業日)に年休を取得すること自体、法的に不可能なのです。



つまり、解雇予告と同時の休業命令は会社にとって解雇予告手当を軽減させる効果、有休を取得不能にさせる効果が期待できることになります。


ただし、私はこの方法を会社に対して積極的に勧めることはしません。

労基法に抵触しないとはいえ、労働者視点からみたら上記の方法は卑怯な脱法行為ととられる可能性が高いですし、理由はどうあれ解雇される労働者は会社に対してマイナスの感情をもっているものです。

企業は組織としての秩序を維持していく為に労働者を解雇するという判断が必要な時もあるのは当然ですが、上記のような方法で追い打ちをかけて労働者の負の感情を爆発させれば高い確率で労働トラブルに発展するであろうことは目にみえています。

どんなに非のあると思える労働者であったとしても、会社は解雇する労働者を完膚なきまで叩いてはならず、むしろ最後は気持ちよく送り出してこそ無用なトラブルを回避でき、最終的に会社にとってプラスとなるはずです。




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