最低賃金の廃止が受け入れられない理由

先日、日本維新の会が選挙公約として掲げネットを中心に物議を醸した「最低賃金の廃止」ですが、あまりの批判にさらされてか早くも最低賃金廃止が撤回され、

市場メカニズムを重視した最低賃金制度への改革」

という訳の分からない文言へ修正された模様です。

http://www.47news.jp/CN/201212/CN2012120401001926.html



最低賃金規制が経営の厳しい中小零細企業にとって大きな負担となっている側面があるのは事実です。

また、非正規労働者を数百人規模で常時雇用しているような企業においては、「最低賃金が今より100円安くなればあと数十人多く雇える」というような状況もあるはずです。

これまで通り最低賃金を毎年引き上げていけば、体力がない企業は倒産、あるいは安い労働力を求めて海外に行ってしまう企業も増えるでしょう。

最低賃金規制が企業を締め付けることによって、結果的に日本の雇用を減らし、最終的には労働者の生活に跳ね返ってくるという理屈自体はおそらくほとんどの方が理解しているはずです。

にもかかわらず最低賃金の廃止という公約について全く理解が得られずに批判が集中するのは、重要な問題点について手つかずのままだからです。



簡潔にいうと、正社員、非正規社員の賃金・雇用の2層構造(同一労働同一賃金の問題が根底にあります。

そもそも最低賃金の廃止によってモロに影響を受けるのは主に時給制の非正規雇用であり、正社員にはあまり関係のない話です。

正規雇用が例えば主婦のパートタイム、学生のアルバイトのみであれば、生活への影響は少ないため、最賃廃止についてそこまで批判が高まることはないと思われます。

しかしながら、雇用形態の多様化した近年における非正規社員の多くは、正社員になりたくてもなれず、フルタイムで正社員なみの業務水準を求められ、そして実際に正社員と同じように生活費を稼いでいかなければならない人々であり、正社員の雇用と給料を守ることを第一としてきた日本型雇用システムが生んだワーキングプアともいえる人達なのです。

正社員の雇用は解雇規制によって強く守られ、そして最低賃金とは無縁の世界で年功型賃金制度(職能給)によって右肩上がりに上昇し、正社員の雇用を守るためにフルタイムの非正規社員が大量に動員されていざという時の雇用調整に利用されてきました。

正社員と同じ職務内容であっても非正規は賃金は半分かそれ以下、福利厚生はなし、いつ切られてもおかしくない状況で働かなくてはなりません。

おまけに来年からは、正社員を希望者全員65歳まで雇わなくてはならない法律までできました(改正高年齢者雇用安定法)。非正規(有期契約社員)はこの恩恵さえも受けることができません。

そして、そんな散々な目にあってきた非正規社員の最後の砦の最低賃金を撤廃しろ、というのが今回の話なわけです。



どう考えても、先に同一労働同一賃金の問題をクリアするべきだと思いますし、その為にはおそらく解雇規制(整理解雇)の緩和や、雇用システムの大きな変革が必要になるものと思われます。(※この点については維新の会の公約に賛成です。)

正社員の身分・賃金は65歳まで保障したまま、非正規社員に対して「お前らの給料は日本経済の足かせになっているから最賃は廃止だ」と言ってみても、土台それは無理筋な話ではないでしょうか。