「有能な幹部には年俸制」という勘違い

佐賀県武雄市が有能な職員を幹部に抜擢し、「年俸制」を導入することによって幹部の育成と活性化を図るというニュースがあります。

「佐賀・武雄市年俸制導入へ 幹部候補を育成」
http://www.nikkei.com/article/DGXNASJC06001_W3A100C1ACY000/


このような報道をみると、一般的に年俸制という制度への正しい理解がされていないことを改めて感じます。



年俸制とは、賃金の額を年単位で決定する制度です。それ以上でもそれ以下でもありません。

賃金を一日単位で決めれば日給制、時間単位で決めれば時給制、そして年単位で決めれば年俸制という訳です。


記事によれば

年齢に応じて金額が決まる年功序列型の給与と違い、年俸は権限の大きさに応じて支払うため、1人当たり約200万円の昇給になるという。

とあり、まるで年俸制年功序列型の賃金を脱却するための成果主義賃金制度そのもののような記述がされていますが、ハッキリいってこれは間違いです。

まず年俸制は「権限や責任の大きさに応じて支払う制度」ではなく、前述したように賃金を年単位で決める制度です。

賃金を年齢で決めるのか仕事内容で決めるのか業績で決めるのかという話と、賃金を月単位で決めるのか年単位で決めるのかという話は、全く別の問題です。

年俸制実力主義成果主義」ではありませんし、極端な話、年功序列型の年俸制という賃金制度だってあり得るわけです。(ただしそんな制度を現実につくる会社はないと思いますが。)


つまり何が言いたいかといえば、企業は年功賃金制から成果主義へと舵を切る際に

「よし。では年俸制の導入だ。」

と安易に考えるべきではなく、なぜ年俸制でなければ駄目なのか、賃金を年単位で決める必要性を明確にするとともに、月給制のまま成果主義へ移行する選択肢を十分に検討することです。


事実、年俸制は総額人件費の管理に優れているという点を除けば、企業にとってあまりメリットのある制度とはいえません。

むしろ年俸制を導入することによって、年途中で賃金を引き下げたり賞与の支給を取り止めることが難しくなり、企業の業績が急に悪化しても柔軟に対応ができなくなるという致命的なデメリットがあり、資本力の弱い企業には特に注意が必要です。

また、年俸制を導入すれば残業代を支給しなくてもよいと考えている方が少なくありませんが、これも大きな間違いであり、年俸制の社員であっても別途残業代を計算した上で支払う必要があります。

さらに、年俸を16で割って各月に12分の1を、夏冬に12分の2ずつを賞与として支給するようなケースでは、賞与額が確定しているため賞与も残業代の計算基礎に含まれることになり、人件費が高くなるというデメリットもあります。


私は個人的には年俸制の導入は積極的にはお勧めしませんし、導入する場合であっても、最低でも残業代の要らない管理職以上、できれば役員に近い上級管理職に限定し、上記に挙げたデメリットを最小限にできるよう柔軟性をもたせた制度設計を行う必要があると考えます。




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