40歳定年制論者はそもそも有期雇用と定年をごっちゃにしている

昨年の夏、国家戦略会議の繁栄のフロンティア部会が「40歳定年制」を提言してからというもの、テレビや新聞、雑誌などで40歳定年の話題をよく目にします。東京大学大学院教授の柳川範之氏が推進しているようです。

※参考までに柳川教授の主張
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK1800V_Y2A910C1000000/


この40歳定年という制度は、労働法の専門家からみればツッコミどころ満載であるのですが、その中の1つとして感じるのは、

「有期雇用契約と定年をごっちゃにしているのでは?」

ということです。



※上記の記事から以下引用

40歳定年制のポイントは、正規社員の基本契約をいったん40歳にしてみたらどうですか、ということです。そこで切る必要はなく、もっと長い30年契約、40年契約でもいいですし、もう少し短い契約でもいい。いろいろな期間なり働き方の契約を多様に認めることにしましょうという考え方です。

「定年を40歳にすべきだ」という提言なのに、30年〜40年契約でもいいと言っています。

定年というのは、ある年齢に達したことのみを理由に強制的に退職させる制度です。定年を40歳に設定したのならば、問答無用で40歳で退職なのです。「そこで切る必要はなく」とありますが、そこで一律に切るのが定年なのです。(その後再雇用するのかどうかは別の問題です。)

「いろいろな期間なり働き方の契約を多様に認める」とありますが、繰り返しますが、定年とはある年齢で一律に退職させる制度です。「いろいろな期間」といわれても無理な話です。

「30年契約、40年契約でもいい」とありますが、これは完全に「定年」の話ではなく「有期雇用」の話になっています。

有期雇用契約は現行法では、最長3年までしか認められていませんが(※例外5年)、この上限規制をなくせという話なのでしょうか。

よく勘違いされますが、有期雇用契約というのは無期雇用と違って、契約期間中に契約を解除することはやむを得ない事由がある場合でなければ認められません。無期雇用の労働者を解雇する場合よりも契約解除が難しいものとされています。

30年、40年の有期契約なんて結ぼうものなら、雇用の流動化どころか、現在の終身雇用以上の硬直化した雇用が生まれてしまうのではないでしょうか。それ以前にそんな危険な契約を企業が結ぶとは思えませんが。

結局「すべての労働者が様々な期間の有期契約によって働く」、というようなイメージなのでしょうが、それなら定年自体を定める意味があるのか疑問です。定年を60歳から40歳に下げることと、皆が有期雇用で働くことの関連性がさっぱり分かりません。おそらく定年と有期雇用の区別ができていないからこのような文章になるのではないかと思われます。




さらに、別の方ですが、あるブログ記事において、上記と関連して以下のような文章を見かけました。

「もし、自分の勤めている会社が、「40歳定年」だとしたら?」
http://www.shinoby.net/2013/03/40-4.html#more

横浜市の秋山木工という家具メーカーの定年は、入社後8年と決まっているそうです。その後は強制的に独立させられるため、社員は8年間で家具職人として独り立ちするため必死に仕事をして技術を学ぶと言います。22歳で入社すれば、定年は何と30歳です。

記事自体は共感できる内容なのですが、定年についてやはり一般に正しく認識されていないことを実感します。

「入社後8年」で退職が決まっているという雇用。
「22歳で入社すれば、定年は何と30歳」になるという雇用。

それは定年ではありません。年齢の違う労働者が同時に入社すれば、8年後の退職時の年齢も当然違うからです。ある一定の年齢で一律に退職させる定年とは全く異なる制度です。

上記はまぎれもなく有期雇用契約です。しかしながら、現在の法制下では8年の有期契約は違法です。ですから、上記の家具メーカーが現実にはどのような制度を運用しているのかまでは定かではありませんし、今回の話とは直接関係がないので言及はしませんが、少なくとも上記ブログ記事においても定年と有期雇用が区別されていない状態から40歳定年制についての話がスタートしていることは間違いありません。



私は基本的に、「人材が最大限活用され、若者から高齢者まで広く活躍できる社会」を目指すのに、40歳定年制は必要ないと考えていますし、まして多様な期間の有期雇用を使うなんて無意味だという考えですが、いずれにしてもまず40歳定年を議論するのであれば、前提として「定年」「有期雇用」というものを正しく認識するところから始める必要があると思います。





関連記事