早くも表面化。労働契約法「改悪」の余波

4月1日から改正労契法が施行されています。これでいよいよ有期契約労働者は、更新によって通算期間が5年を超えた時点で無期転換申込権を獲得できるようになったわけです。当然ですが、この法改正をうけて多くの企業は契約社員の更新年数に上限を設けるであろうことが予想されます。


で、以下のニュースです。

労基法違反:首都圏大学非常勤講師組合、早大刑事告発へ(毎日新聞
http://mainichi.jp/select/news/20130407k0000e040126000c.html

一見すると「労働基準法」違反ということですが、発端は今回の労契法改正です。

記事によれば、早稲田大学は今回の労働契約法改正をうけ、これまで更新上限のなかった非常勤講師などの更新年数に5年の上限を設ける内容で就業規則を改定したようですが、手続きの過程で労働基準法によって義務付けられている労働者過半数代表からの意見聴取を適法に実施しなかったようで、労働組合は近く労働基準法違反容疑で刑事告発をするといっています。

こういう事件があると、労働基準法は刑罰法規だったのだということが改めて認識されるのかもしれませんが。

違反容疑を具体的にいうと、過半数代表者を投票で選ぶ際に、今回の改定で不利益を被ると考えられる非常勤講師や客員教授に対して手続き書類を見せず、投票結果も公表せず、つまりは手続きの過程を一切公開せずにこっそりと進めて規則改定・届出を終わらせたということです。

実際のところ過半数代表者の選出や意見聴取をきちんと行っていない会社なんぞ世の中にいくらでもありますし、法第90条違反であれば30万円以下の罰金で済むといえば済むわけです。

しかし、記事によれば現在4,300人いるという非常勤職員のうちの少なくない数の職員について、おそらく今後も有期契約は更新されるであろうという合理的な期待が発生していたと考えられるわけであり、一方的に5年の上限規制を設ける改定はかなり重要な労働条件の不利益変更だといえます。

確かに改定に際しては相当な反発が予想されるのですが、だからといってコソコソばれないように進めたうえ結果的に刑事告発されてしまったのでは、後々に不利益変更の有効性を争うことになればコソコソ行為自体が不利な材料になるのだと思います。

更新最長5年制限を検討していた他の大学も労働組合の反発によって撤回・凍結しているということですが、多くの職員にとって重要な不利益変更である以上、ある程度時間と労力をかけた説明・協議のプロセスは避けて通れません。無理・強硬に進めれば不利益変更法理(労働契約法第10条)によって無効とされかねません。



就業規則による更新上限の定めは、新たに雇い入れる有期契約労働者に対しては、契約自由の原則により全く問題はありません。また、定めをする時点で既に雇用している場合であっても、まだ更新を繰り返していないような労働者については合理的な更新期待が発生していないと考えられますから不利益変更にはあたらないといえます。

ただし更新を繰り返している労働者については合理的な期待が発生している可能性が考えられるため、少なくとも全員と協議を行ったうえで一人ひとりの合意を得るのが望ましく、雇用契約書においても上限の条項を入れることによりリスクをなくしていきます。合意を得られないのであればそれ以上更新を重ねるのはさらにリスクが高まりますので現在の契約期間までで満了とし、雇止めの有効性の問題に移っていくものと考えられます。


今後、有期労働者を雇っている多くの企業でこのようなトラブルが発生する恐れがあります。今回の法改正がなければ何事もなく更新され満足していた方も相当数いたはずですが、法改正を推し進めた方々はこの状況を見て一体何を思うのでしょうか。




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