入社前研修の賃金・労災その他取扱い

採用内定者向けに入社日前に研修を実施することがありますが、賃金は支給すべきなのか、支給する場合の金額はどうするのか、労災は適用になるのかといった質問を受けることがあります。


入社前研修について賃金支払いが必要になるかどうかは、基本的には研修に参加した時間が労働時間といえるのか(内定者が労働者として働いたのか)によって決まります。

つまり、

1.研修の内容が業務に関連するといえるもので、

2.会社の指揮命令下におかれていると評価できて、

3.実質的に強制参加といえるもの(参加しない場合に不利益取扱いのあるものを含む)

ということであれば、その研修は労働時間と考えられますから、入社前の研修といえども労働の対価として賃金を支払う必要があるということになります。


では賃金を支払う場合、既に内定として成立している雇用契約に定められた初任給を按分計算して支給する必要があるのかという次の疑問が湧いてきますが、初任給についてはあくまでも入社日以降の賃金額について契約したものですから、最低賃金を下回らない限りはいくらに設定しても法違反にはなりません。その際には賃金額をあらかじめ通知書等の書面で明示したうえ承諾を得ておくのが確実だと思います。



次に、入社前研修が労働時間ということであれば労災はどうなるのかという問題がでてきます。

この点は内定者が労働基準法第9条に定められた「労働者」に該当するのかという労働者性の有無によって判断されることになります。

ただし、注意すべきは賃金の件とは異なり、厚労省は入社前研修中の労災の適用に関しては厳密に判断する姿勢をとっていることです。具体的には研修内容が業務と関連性の薄いもの、例えばマナー研修や経済講演のような一般研修の場合には、支払われる手当については恩恵的給付であると判断される可能性があり、労災が認められないということも考えられます。

そのため労災の適用を望むのであれば、最低賃金以上の支給はもちろんですが、アルバイト等のかたちで雇用契約を締結した上で、研修内容に関して本格的な業務遂行を含む関連性の強いものにする必要があると考えられます。


なお、労災の適用の可否に係らず、研修中の事故等については企業に安全配慮義務が求められることになります(通勤途上は別ですが)。この点に関してはインターンシップの場合と同様、研修生の傷病、死亡事故、その他セクハラ・パワハラ等に関して企業側の過失が認められれば賠償責任が生じるリスクがありますのでご注意ください。





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