労働基準監督官の現実<ダンダリンを視聴して>

日本テレビ系連続ドラマ「ダンダリン 労働基準監督官」の第1回オンエアを見ました。一般的に馴染みのない労働基準監督官という職業についてそれなりに具体的に表現できていたように思います。

以下、ドラマでやっていた内容について、実際はどうなのか、個人的にどう感じたかを項目別に言及してみようと思います。




労働基準監督官は労働基準法違反があった場合、逮捕できるということが強調される内容だった。

確かに監督官は司法警察員なので一般の警察官のように逮捕状を裁判官に請求して逮捕ができますが、このようないわゆる「通常逮捕」ではなく「現行犯逮捕」という形であれば法律的には一般人でも逮捕はできるわけですし、ことさら逮捕を強調するよりも送検権限があるという方が現実的ではあると思います。実際に書類送検はザラにあります。

でもドラマ的には書類送検のシーンを放映しても面白くも何ともないことは確かです。




労働者から口頭でサービス残業が常態化していることを聞いただけで、段田凛(労働基準監督官)がすぐに臨検に行くと言い出した。

実際には、労働者からサービス残業の存在を聞いただけでは有り得ない話です。監督官は通常、客観的な証拠等によって違法性をある程度特定した上でなければ臨検は行いません。仮に物的な証拠がほとんどなかったにしても、労働者から細かく聞き取りをして、その内容に違法行為の信憑性が確認できる状況でもなければ職権を発動することはないでしょう。

具体的にはサービス残業の場合は、その会社の労働時間や賃金がどう規定されていて、何月何日にそれぞれ何時間何分の残業をして、それに対する給料の支払いはどうなっていて、結果それらが労働基準法第何条に違反するのか、ということを労働者は監督官に申告します。監督官はそれらの申告に基づいて、調査が必要なのか、調査するとすれば担当者を監督署に呼び出すか、それとも臨検するか、といったことを判断します。

これは監督官が労働基準法違反という刑法犯を扱っており慎重を期しているとも考えられますし、監督官の人数が少な過ぎて全てを調査していたら回らないので違法性をある程度特定できた案件のみ動くという面も影響していると考えられます。




「労働基準監督官は全国に3千人もいるのに被疑者逮捕は年平均2件しかない」というセリフ

逮捕の件数の少なさを強調する為のセリフではありますが、これだけ聞くとまるで労働基準監督官が現状十分に足りているように聞こえるかもしれません。

実際のところ、3000人という人数(2千人台後半といわれている)は圧倒的に人手が不足しているといわれています。労基署に行くとたくさん職員がいるので何も知らない一般の人は職員がみな労働基準監督官だと思うかもしれませんが、監督官はごく一部です。

東京で最も企業の集中する中央労基署では、監督官一人に対して3千数百の企業を受け持つ必要があるといわれています。対応する案件が多すぎて、長時間労働を取り締まるべき監督官が一番長時間勤務に陥っているという冗談のような話です。



と何だかんだ書いてますが、総合してかなりリアルに描かれていると思います。求人を「かわいい女の子」に限定する行為(男女雇用機会均等法違反)やパワハラといった案件が、労基署ではなく労働局の管轄である等なども正確ですし、逮捕前に検察に根回しをするあたりも間違いないと思います。





関連記事