オフィスの全面禁煙化は不利益変更にあたるか

以前の記事で「喫煙者を採用しない企業」について触れましたが、タバコ関連の話題をもう1つ書きます。


平成15年の健康増進法の施行に伴い、企業にも受動喫煙防止の努力義務が課せられ、厚生労働省が発表する「職場における喫煙対策のためのガイドライン」によれば、「全面禁煙か空間分煙が望ましい」とされています。

実際、禁煙や分煙の措置を講じていない会社において、従業員がタバコの煙で健康被害を受けたとして企業の安全配慮義務違反を根拠に訴訟を起こすリスクは無視できない状況にあります。

現在多くの企業では喫煙室等の設置による分煙化が進んでいる状況ではありますが、労働者の健康面を考えれば全面禁煙が望ましいことはいうまでもありません。

一方、勤務時間中に喫煙室等に行って喫煙する行為を認めてはいないものの、具体的な注意や処分等は行わずに実質的には大目にみてきたような会社においては、喫煙をしない従業員との公平を図るという意味においても、職場内の全面禁煙化の検討は重要になってくると思われます。



さて、この場合において、オフィスの全面禁煙化に踏み切ることは、これまで喫煙をしてきた労働者にとって労働条件の不利益変更に該当するのではないかという問題が考えられます。


まず喫煙という行為は完全に私的な行為であり、業務の遂行には全く関係のない行為でありますから、この喫煙行為自体が労働条件にはなりません。

通常、労働時間の間に会社の許可もなく喫煙室へ行って業務と直接関係のない喫煙を行うということは、勝手な職場離脱であり職務専念義務に違反し懲戒の対象となり得ますし、労務の提供をしていない訳ですから債務不履行により賃金カットの対象となります。

ただし、就業規則において「勤務時間中は喫煙をしてはならない」と規定され、そして発覚した場合にはその都度注意指導や賃金カットが行われていた場合には何も問題はないのですが、それらが行われず実質的に多くの従業員が勤務時間中にタバコを吸っていたという場合には、それらの時間がどのような取扱いであったのかを考える必要があります。具体的には、例えばそれらが労働者にとって休憩時間という認識であったのか、さらには賃金の支払い対象となる有給の休憩であったのか、そしてそれらが労働慣行として成立していたのか、というような問題がでてきます。

勤務時間中に喫煙に行く時間の取扱いについて、就業規則に定めがあったり、労使慣行によって根拠があるのであれば、それらの時間は労働条件といえますから、それらの取扱いを無視して一方的に全面禁煙とすることは不利益変更に該当する可能性が考えられます。その場合には、喫煙者の個別同意をとるか、あるいは労働契約法第10条の要件を満たすかたちで合理的な労働条件の変更が行われる必要があります。

そうした規定や慣行などの根拠もなく喫煙が行われていたのであれば、喫煙の行為や時間は労働条件とはいえず、不利益変更には該当しません。また、受動喫煙による健康被害が明確にされている昨今、健康増進法の趣旨から考えてもオフィスの全面禁煙化は不当な措置とはいえないでしょう。




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