万引き被害額の従業員負担はアリなのか

小売業の業界では自社店舗で万引きが発覚した際に、被害額を当日の従業員の頭数で割るなどして従業員に損害を負担させる会社もあります。不注意に関する連帯責任ということなんでしょうが、そもそもこのような行為は法的に認められるのかどうか疑問に思う方もいるでしょう。

端的にいうと、まず労働基準法には違反しません。その点を規制するような条文自体がありませんので。したがって、そのことで労働者が労働基準監督署に相談に言っても特に対応はしてもらえません。

ただし、従業員負担分を給与から天引きしようという場合は、賃金控除について労使協定を事前に締結する必要があるので(労基法第24条)、その点に限って会社は注意すべきということになります。

では万引きの従業員負担は法的に全く問題がないのかといえばそういうことではありません。というより、万引きによる損害は本来会社が負担すべきというのが大原則であって、従業員に故意や重大な過失が認められた場合、損害の一部を従業員にも請求できるのかどうかという民事的な話になってきます。

会社の営業上で何らかの損害が生じた際に、会社が労働者に対してどの程度損害賠償請求できるのかについては以前の記事でも触れました。
会社から労働者に対して損害賠償請求はどの程度可能かを考える - 人事労務コンサルタントmayamaの視点

判例では、会社が労働者に請求できるのは「損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度」とされ、結果的に「損害額の4分の1が限度」と判断されています。

今回の話にあてはめれば、無断で職場離脱していた隙に盗まれたとか、居眠りしていて盗まれたとか、万引きに気付いていたが会社への悪意で止めなかったとか、従業員が万引き犯とグルだったなどのように、余ほどの過失あるいは故意を立証できればいいですが、従業員としての注意義務を怠っていたという程度では、裁判になれば会社はなかなか厳しいのではないかとも考えられます。

まあ、少額であればそもそも訴訟にはならないでしょうし、従業員が自身の過失に反省し納得して払っていれば問題はありませんから、会社の方針と運用にもよるとは思いますが。

また、負担させるにしても、損害額のベースは売価ではなく仕入れ値である原価で行うべきであり、そのうちの大部分を会社負担とし、残りを労働者の職責や過失の程度に応じて負担させるくらいに止めるのが無難であると思います。