労働審判で会社が覚悟すべき支出額

普段私は、本業である企業の労務管理サポートを行う他に、労働者個人からの労働問題・労働トラブルに関する相談を受け、社会保険労務士として可能な範囲で支援を行うことがあります。

昨年(平成25年)は、年間で約150件程度の労働者からの相談に対応し、そしてその中で労働審判の支援まで行った案件が10件でした。ちなみに10件全て解決金を獲得し本人が納得したかたちで解決しています。



労働審判制度は今や、労働者にとって想像以上にお手軽であり非常に使える制度になっています。

もちろん解雇無効による職場復帰を争ったりするのであれば本訴は避けられないとは思いますが、労働者側に金銭解決の意思があるのであれば、労働審判はうってつけの手段です。


裏を返せば、企業は労働審判に持ち込まれた以上は無傷では済まないということです。一定の出費を覚悟しなければなりません。むしろある程度の金銭を支払ってでも、民事訴訟に移行する前に何としても労働審判で和解に持ち込むのが得策だといえます。

現実に、労働審判に出頭してきた企業の担当者や経営者はみな

「1円も支払う気はない。民事訴訟になっても争う。」

という強気な姿勢なのですが、和解協議が始まると例外なく譲歩してきます。

たいていの場合、本訴に進めば会社にとって不利になるうえ、支払額も多くなりますし、余程でなければ本訴においても労働審判と同じ判決になるであろうことを代理人である弁護士から説明され説得されるのでしょう。

感情的に許せないというケースとか、あるいは労働者側の要求額が無茶な金額でない限り、会社側は労働審判での手打ちにおしなべて前向きです。




さて、実際に企業は労働審判を申し立てられたら、具体的にどのくらいお金がかかるでしょうか。

私の経験のみに限定していえば、解決金額は70万円〜150万円くらいになります。

さらに弁護士費用が(労働審判での解決を前提とすれば)おそらく50万円〜100万円くらいになるのではないかと思われます。

合計すると、会社の金銭的な支出額は大体120万円〜250万円くらいになるのでは、と考えられるところです。
(※もちろん紛争に費やす労力や担当者の人件費などは考慮していません。)



労働者側に弁護士が付いているのであれば、その場合の損益分岐点(50万円くらい?)を超えて労働者にメリットのある金額を得られるという見通しを弁護士がつけているはずなので、それなりの出費はまず避けられないと思われます。

弁護士を付けない本人申し立てであれば、労働者側に確かな事件の見通しはありませんので、解決金額を上記よりも抑えられる可能性はあります。

注意すべきは、労働審判は訴訟に比べ裁判官が主導してくれる制度なので、労働者が本人申し立てをしてくるケースは少なからずあるのですが、企業側は必ず弁護士をつけなければなりません。訴える側の労働者は最悪でも解決金を取れないだけで済みますが、会社側はヘタをすれば最終的には(つまり労働審判で終わらなければ)数百万円の支払いでは済まない可能性もあり得るからです。

弁護士費用については、もちろん労働者の請求額によっては上記とは変わりますし、もっと高い弁護士も当然いると思われますが、極端に弁護費用の安い弁護士には注意した方がよいかもしれません。

また、上記の金額においては、残業代不払い、解雇、雇止め、退職強要、パワハラなど紛争の種類を区分していませんが、これは労働審判という制度が通常の訴訟に比べ証拠調べなどの過程をかなり高速ですっ飛ばして行い、かつ、判例をあまり厳格に考慮せず和解を重視してザックリと解決させる傾向にあることから、あまり細かく区分することに意味がないと考えました。
(※もちろん「ザックリ」とは言っても、解雇事案におけるバックペイなど、各事案における相場の金額というものはあります。)



以上から、労働審判は会社にとってやっかいな制度であり、現実に申し立てられた際はそれなりの覚悟が必要であることがご理解頂けるかと思いますが、他方、うまく対応することによって、迅速に被害を最小限に止めることも可能だともいえます。

加えて、労働者があっせんや調停などを申請してきたときには、できる限り低水準での和解の道を探り、労働審判の手前で解決するよう努力することが、結果的には最も支出が少なくなるのではないかと思います。





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