「準正社員」「賃金を抑え解雇しやすく」中途半端な政策でお茶を濁すのか

安倍内閣に代わってからというもの、「解雇規制緩和」への流れが加速しているように感じます。それ自体に異論はないのですが、気になるのは何とも中途半端なというか、意味不明というか、またしてもグダグダな政策が進行中のこの状況です。

まずは具体的なニュースから。

「準正社員」採用しやすく 政府がルール(日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS13038_T10C13A3MM8000/

政府は職種や勤務地を限定した「準正社員」の雇用ルールをつくる。(中略)職種転換や転勤を伴わない分、企業は賃金を抑え、事業所の閉鎖時に解雇しやすい面がある。

この記事がいうところの、「準正社員」なるものを設ける企業側のメリットは「賃金を抑えられる」ということと、「事業所を撤退・閉鎖したときに解雇しやすい」ということのようです。この「準正社員」の設置によって企業は採用を増やすだろうということです。

はっきり言いますが、まず正社員であろうが契約社員であろうがパートであろうが、賃金を抑えるか抑えないかは完全に企業の自由です。どんな賃金制度を運用するのか、どんな契約で雇入れるのか、最低賃金法に違反しない限り企業の裁量で好きにやればいいのであって、決して「準正社員」というカテゴリーを法令でつくらなければ賃金を抑えられないなどということでは断じてありません。

次に、事業所撤退・閉鎖時の解雇についてですが、現行法であっても、入社の際に「職種限定」「勤務地限定」という内容で雇用契約を結んだ場合、実際にそのような制度が企業内で適切に運用されている限り、撤退・閉鎖時に雇用を継続できないという理由で解雇を行っても不当な解雇とは判断されません。企業は契約によって限定された職種・勤務地の範囲内において解雇回避努力を尽くせばよいのです。

つまり、「賃金を抑え」「事業所閉鎖時に解雇しやすくする」ために、わざわざ「準正社員」という位置付けをつくる必要は全くないということです。

(※職種・勤務地限定契約の場合の解雇は、現状ではその都度裁判所の判断によるため、統一した解雇ルールを法律で明確化しておくということであれば話は分かるのですが。)



さらに同記事

企業が正社員とパートの中間的な位置づけで地域や職種を限定した準正社員を雇いやすくなるよう政府が雇用ルールをつくる。

準正社員の賃金水準は正社員の8〜9割だが、期間の定めのない無期雇用で、社会保険にも加入できる。パートや派遣などの非正規社員より生活が安定する。

繰り返しますが、労働者の賃金水準をどうするかは企業の自由ですし、正社員の定義なんて企業によってバラバラです。賃金を「正社員の○割」とすることに意味なんかありません。

そもそも労働法上、「正社員」という概念自体ありません。労働基準法では「労働者」とのみ定めがあり、それが無期と有期に分かれるだけですし、パート労働法において労働時間の短い労働者を「短時間労働者」と定義しているくらいの分類しかありません。

要するに、「正社員とパートの中間的な位置づけ」と言われても、そんな形式は法律上ありえないのです。

「期間の定めのない職種限定・勤務地限定の労働者」を雇いたいのなら現行の法律でできますし、賃金も企業の好きに決めることができるのです。わざわざ「準正社員」をつくったからといって企業が今までより雇用しやすくなるということは考えられません。

さらにいうと、社会保険はパートや有期労働者であっても一定の要件を満たしたら必ず加入させなければならない決まりです。企業が法令を無視して加入させていないのであれば、それは法律ではなく監督行政のあり方の問題です。「準正社員」だから社会保険に加入できるという理屈は全くをもって意味不明です。



今回の報道にあるような「準正社員」なる極めて意味の薄い中途半端な雇用形態を創出したところで、かえって企業の労務管理が複雑化するだけで企業にもメリットはありませんし、当然労働市場の流動化にもつながらず、労働者側にもメリットはないものと思われます。

現状の正社員の解雇規制には一切手をつけず、同一労働同一賃金の問題も放置したままで、実質的には非正規雇用ともとれるような雇用形態をもう1つ増やすしたところで、そんな小手先の政策にたいして意味はありません。






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