労基署の残業上限時間の容認っぷりが凄まじい

東京新聞が企業の労使協定の実態を調査したところ、残業時間の上限があまりにも法令の趣旨とかけ離れており、労災の過労死認定基準をはるかに凌ぐ上限を設定している企業が少なからず存在していることがわかりました。

以下、東京新聞記事より引用します。

二〇〇〇年以降に労働基準監督署や裁判所が社員の過労死や過労自殺を認定した 企業のうち、本紙が把握できた百十一社について残業時間の上限を調べたところ、約半数の五十四社で依然として月八十時間(いわゆる過労死ライン)以上の残業を 認めていることが分かった。社員の働き過ぎを抑制する動きは鈍い。

本紙は百十一社の過労死があった本社もしくは支店について、労使が結んだ最新の「時間外労働・休日労働に関する協定(三六協定)届」を情報公開するよう労基署の上部機関である労働局に請求。

開示資料によると、月当たりの残業の上限が長いのは、NTT東日本の二百五十八時間や大日本印刷市谷事業部の二百時間、プラント保守大手「新興プランテック」の百八十時間、ニコン、JA下関、東芝電機サービスの各百五十時間など。これらを含め百時間以上は二十七社あった。

労働組合のある五十八社の月平均は約九十三時間。労組のない五十三社は約六十四時間で、労組のある企業の方が長時間労働を容認する傾向が浮かぶ。

本紙は百十一社に労務管理のアンケートも行い、二十六社から回答を得た。

現行制度は、企業が労基署に届け出る三六協定の残業時間について「月四十五時間、年三百六十時間」までという制限があるが、特別な事情があれば、半年間はいくらでも
延長できる。

こうした制度の見直しについて二十六社からは「企業ごとの状況や立場が異なるので一律的な見直しは困難」(製造業)「企業モラルの問題」(外食産業)などの回答があった。

労働問題に詳しい森岡孝二・関西大教授(企業社会論)は「過労死があった後も、長時間の三六協定を労基署に受理させている厚生労働省の考え方と、それを許している法制度に問題がある」と指摘する。


まず、残業時間についての法規制を簡単にまとめますと、


1.労使協定を締結していない会社は1分でも残業させたら労基法違反

2.労使協定で定められる残業時間の上限は月あたりだと45時間(協定した時間を超えたら労基法違反)

3.労使協定に特別条項を入れれば、月45時間を超える協定も締結できる。この場合の上限は特に設定されていない。

4.ただし、過労死の労災認定基準(月80時間等)が存在する為、その基準を超える協定は法の趣旨から好ましくない


ということになります。
労災認定基準の詳細は過去記事をご覧ください。
<過労死・過労自殺> 残業時間の上限を考える - 人事労務コンサルタントmayamaの視点



つまるところ、法令上は労使協定の手続きをきちんとしていれば、何時間で協定しようが違法にはならないわけですが、労基署が月150時間、200時間の残業を許す協定をやすやすと受理する事実には正直唖然とします。

仮に上限いっぱいまで残業させた場合、休日出勤を毎週1回したとしても、毎日7〜9時間残業することになると思われます。

このような労使協定を締結し、過労死ラインを超える労働をした労働者が亡くなれば、企業が遺族から責任を追及されることになります。「労基署が協定書を受理したんだから企業に責任はない」と言ってみても行政は責任をとってくれません。ですから企業としては今回のような記事を見て「何だ、100時間、200時間を上限に協定しても問題ないのか。」と安易に考えたりせず、労基署が受け取る・受け取らないに関わらず労災認定基準を考慮して残業時間を協定すべきです。

それにしてもこうした協定が原因で過労死が発生すれば、適切な是正・指導を行わなかった監督行政の責任は大きいと思います。監督責任を問う訴訟を起こされて然るべきだと思います。


もう1点気になるのは、労働組合のある企業の方が労働組合のない企業に比べ、協定の上限時間の平均が約30時間長く、過労死ラインを超える93時間であったという点です。近年、集団的な労使交渉がいかに形骸化しているかを再認識させられる記事でした。




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