ユニクロ報道をみて思うこと<サービス残業問題の本質>

先日、東洋経済で「ユニクロ 疲弊する職場」と題して、現場社員(主に店長クラス)の壮絶な長時間労働、過酷な労働環境とそれらに起因する高い離職率の実態が公開され、大きな波紋を呼びました。

※記事はこちら
http://toyokeizai.net/articles/-/13101


この記事をうけて同社柳井会長が体制の見直しを発表したことからも、今回の報道がいかに世間に大きな影響を与えたのかがよく分かります。

ユニクロ、もう「ブラック企業」とは言わせない! 柳井正氏「サービス残業は会社を潰す」(J-CASTニュース
http://www.j-cast.com/2013/03/08168877.html?p=all



実務家である私の実感からしても残業代をめぐる労使紛争は最近は本当に増えてきており、サービス残業は放置できない問題となっていますが、一方、今回のユニクロ報道をみて、企業にとって残業問題の真に危うい点とは何なのかを改めて感じたところです。


前述「ユニクロ 疲弊する職場」にて、注目した点は以下です。

社員の月間労働時間を最長240時間と定めている。(中略)社員の間でも、もしこの上限を超過したら出勤停止処分となり、厳しく指導されると認識されている。

サービス残業が発覚した場合には、降格、店長資格剥奪など人事による懲戒処分が行われる。実際、長期間にわたりサービス残業を強要・黙認していた店長には退職勧奨が行われた。


1.1ヵ月の労働時間が240時間を超えると厳しいペナルティがある

2.しかし、240時間でとてもおさまる業務量ではない


このような時、労働者はどういう行動をとるのか。当たり前ですが、ペナルティを受けたくないので、隠れてサービス残業をするようになります。

(※法的に言うと、会社が指示した仕事が客観的にみて所定時間内に処理できないと認められる場合は、黙示的に残業の命令があったもの(※黙示の指示)とみなされます。これを今回のケースにあてはめると、「残業をしろ」と命令し、同時に命令に従って残業をしたら「罰則を与えるぞ」と脅しているようなもので、かなり矛盾した運用をしていることがわかります。)


さらに以下です。

3.サービス残業をしていることが発覚したら厳しいペナルティがある

これによって労働者は隠れてやっているサービス残業を何が何でも会社にバレないように隠すようになる訳です。



未払い残業代の本質、本当の問題とは何でしょうか。それは長時間労働の防止」であり、「労働者の健康の確保」です。それが大事なのです。少なくとも監督行政機関である労働局および労働基準監督署はそう考えています。

残業代がきちんと支払われていないこと、未払いの状況そのものが重要なわけではありません。未払いをおおっぴらに許すと、長時間労働に歯止めがきかなくなる、そうすると過労死やうつ病などの労働災害につながる、だからサービス残業は駄目なのです。

誤解を恐れずにいえば、監督行政機関は労災に結びつく可能性の低い短時間のサービス残業にはおそらく興味はありません。残業代を支払わせることそれ自体が目的ではないからです。



そうなると、企業にとって最も重要なのは、まずは正確な実態を把握することです。実態を把握できなければ適切な措置を講じることはできません。今回のようなやり方は論外であり、一番やってはいけない方法であることを分かっていないようです。法的な視点からみて、労働者がサービス残業の事実を隠している状況が企業にとって最もリスキーなのです。

よく労働者のサービス残業を見て見ぬフリをして、労働者の過少な申告をそのまま記録し、残業代を支払わなくて済んだと考えている経営者がいますが、そんなやり方は通用しません。会社には労働時間を把握・管理する義務が法律上あるからです。労基法に違反するだけでなく、安全配慮義務違反により億単位の損害賠償リスクがあることを知っておかなければなりません。



ちなみに余談ですが、今回のニュースをみて、ワタミの渡邉美樹会長が大津いじめ問題に関して、「いじめが起きたクラスの担任教師は給与を下げるなど、教師には成果主義、競争原理を持ち込むべきだ」と発言したことを思い出します。いじめの発覚にペナルティを科せば、教師はいじめを隠すようになるのは目に見えているわけですが。





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