いまだ多くの企業で問題ありの「名ばかり管理職」

法テラスに勤務していた弁護士が残業代の支払いを求めて法テラスを提訴する事件が先月ありました。

http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20120424-OYT1T00615.htm

これは単なる残業代不払いの問題ではなく、当該弁護士が実態は労働基準法上の管理監督者としての権限を有していなかったにもかかわらず、管理監督者として取り扱われ時間外労働に対する賃金が支払われなかったという「名ばかり管理職」の主張がなされています。



マクドナルド裁判(3年前に高裁段階で和解成立)をきっかけに名ばかり管理職問題は注目を集め、残業代を支払わなくても違法とならない管理職の範囲について真剣に検討する企業も最近は増えてきていますが、世間を見渡せばまだまだ危ない企業ばかりだと言わざるを得ない状況です。


企業の経営者・担当者の方と名ばかり管理職の話をする際に管理監督者という名称を使うと、「それは何ですか?管理職とどう違うんですか?」と聞かれることがあります。

管理職はあくまで会社が任意に決めた社内の職制上の役付者です。そして、管理監督者(※正確には「監督もしくは管理の地位にある者」といいます。)は労働基準法によって定義された、労働時間・休憩・休日の規制が適用されない例外的な労働者(つまり時間外手当・休日手当を支給しなくてもよい者)のことです。

社内の役職を基準にして企業が残業代支給の有無を決めることは当然ながらできません。でなければ、権限のない労働者にも名目だけの役職を与えることによって会社が意図的に残業代の支払いを免れることが可能となってしまいます。

従って、労基法上の管理監督者とは何か、社内において運用されている管理職と一体何が違うのかを正しく認識することが未払い残業代問題に備える第一歩となるわけですが、管理監督者の範囲は一般的に考えられているよりもはるかに狭く、相当厳格に判断されるのが現状なのです。


通常、多くの企業では、課長(あるいは課長代理、課長補佐など)以上を管理職としています。中小企業では係長や主任などを管理職として取り扱っている会社を見たこともあります。サービス業などの店舗型チェーン展開企業においては、かつてそのほとんどが店長を管理職としていましたが、マクドナルド訴訟以降は店長を管理職からはずして残業代を支給し、店長を統括しているエリアマネージャー以上を管理職とするように取扱いを変更する企業が現れる一方、いまだに全く取扱いを変えていない企業も少なからず存在する状況です。

これらの課長や店長といった役職者は管理監督者に該当するのでしょうか。


法律上は管理監督者の定義は明確には示されていませんが、行政通達において、管理監督者「労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者」とされています。

判断のポイントは3つです。

1.職務内容、権限・責任が相応か
2.出退勤の時間について厳格な規制を受けないか
3.地位にふさわしい待遇か(基本給・役職手当・賞与)


実務的に特に重要と言えるのは、「1」の職務内容、権限・責任だと思います。

例えば、採用・人事考課・異動・解雇などの人事権については実際かなり大きな裁量が求められます。これらの権限が全くない、またはあってもあまり影響力が及ばないという場合には、まず管理監督者とは認められないと考えたほうがいいでしょう。

また、職務内容についても、実際にマネージャーとしての管理的業務を行っているかどうかは非常に重要なポイントであり、課長・部長などの役職が付いていても普段はほとんど部下と変わらない仕事をやっているということであれば管理監督者性は迷わず否定されます。プレーイングマネージャーであっても一般の従業員と同じ内容の仕事は多くても全体の2〜3割にとどめるべきですし、シフト勤務の店舗型サービス業の場合には、自らシフトに入って他のシフト勤務者と同じ業務を行うのは避けるべきです。


「2」「3」はどちらかというと補足的な位置づけであり、「1」の条件を満たしていることがまず大前提になります。まず仕事の中身や権限はどうなのか、その上で勤務態様や待遇はどうなのか、という順番です。

ですから賃金についても相応の金額を払ってさえいれば管理監督者として認められるというものではなく、仮に残業している部下に支給総額で超されるような逆転現象が起きていれば管理監督者性を否定される重要な要素となるでしょう。もちろん逆転していなければよいという訳でなく、相当程度の格差が必要とされます。


法令上は、人事権、管理的業務、逆転現象などがキーワードになりそうですが、これらの条件を満たす管理職は実際ほとんどいないのではないでしょうか。該当しそうなのは最低でも部長クラスから限りなく役員レベルに近い労働者だと思われます。

つまり、現実には日本中の企業において名ばかり管理職が溢れている状況、といえなくもないと思います。

とすると、管理監督者の範囲を正しく認識するだけでは問題は解決しません。実質的に役員レベルに達していない管理職のほとんどを管理職からはずした上で残業代を支給するなど現実的に不可能だからです。

どうしてもすぐには管理監督者の取扱いを適正化できないといったときは、仕方ないので取りあえず早急に月例賃金における役職手当の割合を高めることです。万が一名ばかり管理職問題でトラブルになり管理監督者性を否定された場合に、役職手当として支給していた額を残業代相当額として取り扱ってもらうことができれば、会社が遡って支払うべき残業代を小さくできますし、残業代の算定基礎から役職手当分を外してもらうことも可能と考えられるからです。


ただし、線引きの微妙な管理職は別としても、明らかに管理監督者に該当しないと考えられる管理職については一刻も早く管理職から外し、役職手当を減額させた上で残業代を支給することを強くお勧めします。



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