5年を超える前に雇止めすれば問題ないという勘違い<改正労働契約法>

先週、改正労働契約法がとうとう可決、成立しました。有期雇用契約の労働者(契約社員)が同じ会社で5年を超えて反復更新された場合には、本人の希望により無期雇用(つまり正社員)への転換を企業に義務付けるという例の話題の法改正です。施行は来年の4月です。

この法改正による世間の反応はというと

「そんな規制したら、会社は5年経つ前に更新打ち切るに決まっているでしょ。」

「これまで長年更新されてきた人がみな5年以内で契約打ち切られて失業者が増える。」

という声が大多数のようです。今回の法改正が「5年以内の雇止めの促進」につながるというわけです。確かに企業は概ねそのように動くと思います。ただし、本当のところはそんなに単純な話ではありません。



今回の労働契約法の改正は、多くの企業や労働者に大きな誤解を与えかねない法改正だと思っています。

というのも、現実として今まで企業は有期雇用契約を何年も実質上限なく更新してきました。そして今回の改正で、上限の5年を超えた場合には無期雇用に転換しろといわれています。裏を返せば、「通算5年経過時点までに更新を止めさえすれば、有期雇用を何回更新してどう取り扱おうが基本的に企業の自由だ」という間違った認識を企業と労働者に与えかねないのであり、少なくとも多くの労働者はそう考えている状況です。

しかしながら、有期労働契約は本来、臨時的・一時的な業務を行わせるための雇用形態であり、そもそも常用的な労働者を雇い入れることを前提としていません。にもかかわらず現実には多くの企業が恒常的業務のために有期労働者を雇って反復更新を重ね、そして都合のいいときに契約を打ち切るという法の趣旨に反した運用を続けているのであり、裁判では実質「期間の定めのない雇用」と同じだと判断され解雇法理が適用されて雇止め無効とされるケースが少なくありません。例え上限5年に達していなくとも、「無期雇用と判断される可能性」も「雇止めを無効とされる可能性」も十分にあるのであり、5年を超えたら「可能性」どころでなく問答無用で無期転換を強制されるということなのです。

しかも今回の改正では、合理的な理由がなければ雇い止めはできないとする「雇止め法理」が明文化されています。これまで裁判で示されていた雇止め法理が法律に明文化されることによって、これまで以上に雇止め時の正当な理由が重要になると考えられます。

したがって、有期雇用契約が5年を超える前に雇止めをすれば何も問題ないなどという考えは大きな間違いであり、むしろこれを機会に自社の有期雇用の運用の適正化について真剣に検討すべきであることがお分かりいただけると思います。

当然ですが、無期転換を回避するための5年雇止めは合理的な理由とはいえません。厚生労働省告示に基づき労働者が雇止め理由証明書の交付を会社に請求した場合には、まさか雇止めの理由を「無期転換回避の為」とは書けませんので、きちんと合理的な理由を明示することが求められます。



さらに注意したい点は、今回の改正は通算期間の長さを基準にして無期転換の義務を課しており、ともすれば通算期間が長いほど(更新回数が多いほど)無期雇用に近づき、逆に通算期間が短ければ(更新回数が少なければ)有期雇用として認められやすいとの誤解が生じかねないということです。

過去の判例では、まだ1度も更新していない有期契約を1年終了時点で最初に更新拒否した場合であっても、継続雇用への合理的な期待があったとして雇止めが無効とされたケースがあります。必ずしも通算期間や更新回数だけで雇止めの有効性が判断されるわけではなく、雇用の実態を総合的に考慮して判断されるという事を忘れてはいけません。



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