健康診断を受診しない社員に対するペナルティ

ちょっと古いニュースですが。

「健診受けないと賞与15%減ローソンが来年度から導入 」
http://www.sponichi.co.jp/society/news/2012/12/24/kiji/K20121224004840370.html


業務の忙しさなどを理由に健康診断を受けなかった社員とその上司に対し、翌年の賞与を減額するというペナルティを科すことによって、全社員の受診率を引き上げるのが狙いだそうです。なかなか面白い制度だと思います。



そもそも企業は労働者に対して毎年一回、定期健康診断行う義務があります。
(※パートや契約社員であっても、継続1年以上の雇用見込みがあり、かつ週の所定労働時間が通常の労働者の4分の3以上であれば受けさせる必要があります。)


法的根拠は、労働安全衛生法が定める健康診断実施義務、そして労働契約法に規定されている安全配慮義務(労働者の健康を気遣う義務)です。

健康診断を実施していないとなれば、労働安全衛生法違反ということで労働基準監督署から指導を受け、50万円以下の罰金という罰則もあります。

ただし、それだけでは済まないのは、会社は労働者の健康に関して労働契約上、一定の責任がありますから、労働者が仕事で健康状態を悪化させ病気になったり、場合によっては死亡したということになると、

・会社は安全配慮義務を履行していたのか
・その為に必要な労働者の健康状態を適切に把握する努力をしていたのか

という話になるわけで、会社が健康診断の実施を怠り労安衛法違反が成立すれば、安全配慮義務違反も成立する可能性は高くなり、労働者または遺族に対して損害賠償責任が発生するということになります。



さて、これらの法的な義務を背景に企業は、健康診断を受けない労働者に対して対策をとっていくことになりますが、どこまですれば法違反を免れるのでしょうか。

企業の健康診断実施義務としては、健康診断を受けられる場と機会が労働者に与えられたかどうかがポイントになり、そのような場と機会が与えられたにもかかわらず労働者が受診しなかったことが明らかである限り、労安衛法上の義務は果たしたとみなされます。

ですから具体的には、まず就業規則において社員の健康診断受診義務と、受診しなかった場合の懲戒処分を明記しておきます。(※実は法律上、労働者にも受診義務は定められているのですが、罰則がない為に実効性が弱いので、会社で独自に義務と罰則を定めておくということです。)

そして健診日当日に受診しなかった労働者について、何回かはスケジュールの再調整を行って受診を促すべきだと思います。

これらの経緯を記録し労働基準監督官に説明すれば労安衛法違反とはみなされないと考えられます。


さらにもう一歩踏み込んで安全配慮義務をクリアしていく為の方法として、健診後、異常の所見が見つかった労働者について再検査すべき旨を就業規則で規定し、従わない労働者については会社側は労務提供の受領を拒否する旨を定めるという方法があります。(※再検査については法律上労働者の義務とはなっていない為、懲戒処分までは行うべきではありません。)

健康診断を実施している時間の賃金については支払わなくても違法ではありませんが、行政通達によれば会社が払う方が望ましいとされているので、やはり支払うべきだと思います。



今回のニュースにあった「賞与の減額」というペナルティは、懲戒処分よりも労働者の実利に結びつくものであり、「健康診断を受けなければ」と労働者に強く思わせる面白い制度だと思いますが、ただし、罰則だけを強化するのではなく受診しやすい環境を作り出すことも同時に行わなければ、結局労働者の不満を高めるだけで終わってしまう可能性も否定できないのだと思います。




関連記事