自転車通勤の法的リスク・問題点

ここ数年、自転車で会社に通勤するという方は急増しているように感じます。

自転車通勤に切り替える理由としては、「健康を考えて」、「通勤ラッシュが嫌だから」、「エコだから」、あるいは「会社に電車通勤で申請しておいて支給された定期券代をフトコロに入れる」なんていう不正受給の動機も実際あると思います。


一方、会社側も駐輪場を整備したり、自転車で通勤する社員の通勤手当を優遇するなどして、自転車通勤を勧める企業も徐々に増えてきています。

「自転車通勤勧める「はてな」 手当2万円、保険費負担…思わぬ効果も」
http://www.sankeibiz.jp/business/news/121209/bsj1212090710001-n1.htm



ただし、ここで注意したいのは、自転車通勤は通常の電車通勤に比べて法的なリスクをはらんでいる部分があり、会社も従業員もその辺の対策をとったうえで自転車通勤に切り替えることが重要であるということです。

リスクとは、大まかにいうと、

・通勤途上で事故を起こし従業員が負傷した場合
・逆に従業員が加害者となってしまった場合
通勤手当を不正に申告する問題
・駐輪場の問題

などが考えられます。




まず第一に、通勤途中で事故が発生し従業員が負傷、場合によっては死亡してしまった場合に、労災保険が適用されるのかという問題が考えられます。

結論をいうと、「合理的な経路」を通っていたのであれば原則、通勤災害として認められることになります。「合理的な経路」とは簡単にいえば通勤に関係のない場所を通ったり、寄り道したりしていないということです。

ちなみに会社が自転車通勤を禁止していたり、許可制なのに無許可で自転車通勤をして起こした事故の場合はどうかというと、やはり経路が合理的であれば会社の規定に係らず労災は適用されます。(※ただし、規定違反については別途会社から懲戒などを受けることになると思います。)

また、子どもを通勤途中で保育園に預けたり迎えに行ったりする場合はもちろん保育園に寄る経路も含めて合理的と判断されるのが通常です。

通勤災害において会社が注意すべき点は、通勤以外の目的で経路を外れればそれ以降は事故を起こしても労災が適用されなくなるということを従業員に十分に周知しておくことです。




第二に、通勤途中の事故で従業員が加害者となり、他人を負傷、または死亡させた場合の責任の問題です。最近は自転車の高機能化によって死亡事故も確実に増えてきている為、軽く考えるべきではありません。

他人をケガさせれば従業員本人に損害賠償責任が発生するのはいうまでもありませんが、本人が賠償できない場合には雇用主である会社にまで賠償責任が及ぶ可能性も否定できません。

会社として自転車通勤を認める以上は、損害保険の加入を義務付けるべきですし、保険内容まで確認した上で許可するような運用ルールを構築すべきであると思います。

前述の「はてな」の事例では、保険費用を会社が負担ということでしたが、自転車通勤を奨励する場合には、そのような制度の検討も必要ではないでしょうか。




第三番目の問題としては、通勤手当に関してです。

実際は自転車で通勤して費用はほとんどかかっていないのに、会社には自転車通勤の申請を行わず、定期券代相当の交通費をそのままもらい続けるというケースは会社側が考えている以上に多いかもしれません。

就業規則における規定の仕方にもよりますが、通勤手当は「通勤に要した実費相当額」を支給するものと規定されるのが一般的です。自転車通勤に切り替えているのに電車通勤の定期券代を受け取るのは不当利得であり、過去にさかのぼって返還請求を求められますし(※10年まで遡れる)、そもそも無許可の自転車通勤に対しては懲戒処分が科されるべきものです。

会社としては、返還請求、および懲戒処分を行えるような内容の就業規則を備えておく必要があります。




第四番目に、駐輪場の問題があります。

会社の近隣の路上や私有地に駐車されれば迷惑になりますし、自転車通勤を許可した会社にクレームが及ぶ可能性が考えられます。

会社で駐輪場を用意するか、あるいは従業員が駐輪場を確保していることを確認した上で自転車通勤を認めるような制度が必要でしょう。




全てまとめると、まず会社としては、自転車通勤を禁止するのか、許可制として認めるのかを決め、禁止するのであれば就業規則服務規律および懲戒の条項に禁止の旨と、違反した場合の罰則を明確に規定することです。

許可制で認めるのであれば、「自転車通勤規程」を作成し、自転車通勤の申請手順を規定します。

損害保険費用は会社負担か自己負担か、駐輪場は会社が用意するのか各自が確保するのかを決め、従業員に任せる場合には、申請の際に損害保険の加入証明、および駐輪場の証明を提出させるように規定します。

通勤手当についても優遇措置をとるのか、無支給とするのかを決め、不正受給の場合の返還義務も含めて賃金規程に定めます。

申請を受けた際には、承認をする前に労災について、特に通勤災害が適用されない場合のリスクについてよく説明します。

規定に違反した従業員については、懲戒処分によって厳格に対応します。もちろん従業員の側も、規定に違反して自転車通勤をするのであれば、後々痛い目にあうかもしれないリスクを忘れない方がよいと思います。




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