競業避止義務の有効性

少し古いニュースですが、生命保険のアリコジャパンの元執行役員が会社の競業避止義務規定に反して競合他社に転職し退職金を不支給にされた件で争われていた裁判で、会社の取り決めは無効として退職金を全額支払うよう命じられる判決が先月ありました。

http://www.jiji.com/jc/zc?k=201201/2012011300977


競合他社への転職禁止と罰則を定める競業避止義務の有効性については古くから議論のあるところです。憲法の保障する職業選択の自由を不当に制限する恐れがあるからです。

実際に競業避止義務の有効性が問題となった場合、裁判において判断材料となるのは以下です。

・従前の地位・職務内容
・競業行為禁止の期間・場所的範囲・対象職種の範囲
・金銭の支払いなど代償措置の有無や内容
・違反に対して会社が講じる措置の程度

これらに基づいて合理的な範囲内でのみ競業避止義務が認められることになり、合理的範囲を超えれば公序良俗違反として無効とされます。

競業避止義務は、企業の営業上の秘密を保護する目的から合理的な範囲内で認められているものである為、対象者は重要な機密情報を保持する高い地位にある者であることが前提になります。

本人の転職活動に制限をかけるわけですから期間も不当に長くすることはできません。転職禁止の地域については、全国に拠点があるのかどうか、あるいは営業上の秘密が何に係るものなのか(技術、ノウハウ、顧客情報など)によって無制限とするか都道府県などに絞るのか変わってきます。


競業避止義務違反における会社側の措置としては、競業行為の差止め、退職金の減額・不支給や損害賠償請求が考えられます。

退職金の減額・不支給に関しては、退職金の法的性格が重要になってきます。退職金の法的性格には、賃金後払い的性格、功労報奨的性格が混在しているものと一般的に認識されています。

よく懲戒解雇で退職金を不支給とする取扱いがありますが、これは功労報奨的性格を前提に労働者の功労に対する評価を減じて行う措置だと考えられます。競業避止義務違反についてもやはりこれと同様の考え方によるため、退職金制度の構造が賃金後払い的要素を多分に含んだものであれば、退職金の減額自体が無効とされる可能性も否定できません。特に最近はポイント制退職金が普及しており、業務における貢献を反映させる制度設計であれば賃金後払い的性格が強くなるものと考えられる為、この点に留意する必要があります。


冒頭で触れた今回の事件では、執行役員という一般的には経営陣と認識される高い地位でありながら、裁判においては「機密性を要する情報に触れる立場ではなく実質的には労働者」という評価をうけ、競業避止義務の取り決め自体を無効と判断されました。

これらを踏まえると、競業避止義務が認められるのは現実かなり狭い範囲と考えられますから、転職禁止期間は1年(長くても2年)、対象者は実態として部門統括者から役員クラス以上が妥当であり、罰則についても退職金を全額不支給とするのはなかなか厳しいものがあるのかもしれません。代償措置として機密保持手当などの支給を検討することも重要であると思います。


なお、競業行為に対する損害賠償については不法行為を理由に認められる場合がありますが、金額自体を取り決めると労働基準法第16条(賠償額予定契約の禁止)に違反しますので注意してください。

また、規定なしで罰則を科すことができないのはいうまでもありません。



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