解雇の金銭解決ルールは労働者にとってはたして損なのか

解雇金銭解決制度の議論に関するこんなニュースがあります。

解雇補償金制度が導入されると「カネさえ払えばクビ」にできる?(週プレNEWS)
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20130828-00000427-playboyz-soci

「制度化されれば解雇解決金の水準が示されます。現状では従業員が会社側と最高裁まで争って勝訴すれば、判決確定までの賃金の支払いと将来の賃金相当分の支払いが会社側に命じられ、少なくとも3年分の賃金は確保できる。

しかし、この制度をすでに導入しているスウェーデン(勤続5年未満→月給6ヵ月分など)がそうであるように、制度化されると解決金の水準が低めに設定され、従業員にとっては現状より少ない金額と引き換えに解雇されることになります」(労働問題に詳しいジャーナリストの金子雅臣氏)


現行法の下で労働者は最高裁まで争えば少なくとも3年分の賃金を勝ち取れるというのは、全体から見ればあまりにも一握りの結果を一般化しすぎだと思います。

世の中の不当解雇といわれる解雇案件のうち、多くは行政のあっせんや労働審判によって低水準の解決金で解決されており、ごく少数だけが裁判まで進んで徹底抗戦を行い、そして圧倒的大多数の労働者は具体的行動さえ起こさずに泣き寝入りしているのが現状です。

そもそも大企業と中小企業では全く状況が異なる現実があります。

大企業であれば解雇以前の退職勧奨の段階で賃金1年分〜2年分などの高い水準の金額が提示されることもよくありますし、従業員もまた金銭的に余裕がある人が比較的多く、本腰を入れて個別労働紛争に乗り出す確率も高いでしょう。労働審判民事訴訟へと進めば2年分、3年分などの解決金額になる可能性も確かにあり得る訳です。

ところが中小企業の場合、解決金が賃金2〜3ヵ月分などというのはよくある話であり、行政のあっせんのレベルでは賃金1ヵ月分の解決金が提示されることも全く珍しくないのです。それ以前にすぐ次の職を見つけないと生活が成り立たず、とても結果の見えない紛争を押っ始めるような余裕はないという労働者が大半であり、「会社側と最高裁まで争って勝訴すれば」という状況がいかに非現実的な夢物語なのかというところです。このような現状を踏まえれば、例えば解決金が賃金6ヵ月分という水準を法制度によって確実に補償されることであれば、一概に労働者にとって損だと一刀両断に言い切れるものでもありません。

結論を言えば、金銭解決ルールの法制化は、大企業の労働者にとっては解決金水準が現在よりもおそらく下がることとなり、逆に中小企業の労働者にとっては解決金水準が上がるうえ、さらに法制度によって最低限の解決金が担保され泣き寝入りするケースが大幅に減少する可能性が高いのでは?と考えるのであります。

では企業にとってどうなのかといえば、概ね労働者の場合と逆になるということでしょうか。もちろん各企業の方針・考え方によって異なると思いますが。

ただそれにしても、いかに解雇無効の場合は現職復帰が原則とはいえ、現行法下においてはあっせん・労働審判ではほぼ全てが、そして裁判になっても本人が現職復帰を強く望んで判決を取りにいかない限りその多くが事実上和解によって金銭解決しているのが現状であり、そもそもの金銭解決ルールの趣旨と必要性についてもう少しきちんと考えて議論すべきであると思います。