社会保険に加入しないリスク

厚生労働省非正規労働者の厚生年金の加入要件緩和を検討している件を1ヵ月前に書きました。

※以前の記事
厚生年金の加入要件緩和の是非 - 人事労務コンサルタントmayamaの視点

社会保険の加入義務があるにもかかわらず、その負担の大きさを理由に、従業員を加入させない中小零細企業も少なくないのが実情です。

法律では社会保険未加入の会社について一応罰則が定められているのですが(6ヵ月以下の懲役または50万円以下の罰金)、現実に適用される例は稀なようです。



では、実際のところ、企業が社会保険に加入しないことによる現実的なリスクとは何でしょうか。


私は以下の3つだと考えます。

  1. 従業員が病気などにより休業した際の傷病手当金が支給されない。
  2. 従業員が死亡した際の遺族厚生年金が支給されない。
  3. 行政の調査が入った際に、過去2年間遡って保険料を支払わされる。


1. 傷病手当金は、私的な病気やケガで仕事に就けなくなった時に、1年半にわたって概ね給料の3分の2が支給される制度です。実際に休業した労働者にとっては非常にありがたい制度です。

ところがこの傷病手当金国民健康保険の加入者は受給できません。要するに、社会保険未加入の会社の従業員は受給できないのです。

この場合、社会保険に加入させなかったのは当然会社の責任ですから、会社は従業員が受け取れるはずであった傷病手当金に相当する金額を自腹で補償する必要があるものと考えられます。でなければ従業員に損害賠償を請求されてもおかしくありません。


次に 2. 遺族厚生年金も考え方は同じであり、従業員が死亡した際にその奥さんなどの一定の遺族に対し年金が支給されるのですが、「厚生年金」なので当然、社会保険に加入していない会社の従業員の遺族は受給できません。

こちらも会社の賠償責任の話がでてきそうですが、「年金」である分だけ、傷病手当金よりも場合によっては重い金額になりそうです。



そして最も現実的に起こりうるリスクが 3. 行政の調査です。

年金事務所社会保険に関する事務が適正に行われているか確認する為、定期的に企業に調査を行います。ここで未加入が判明すれば、該当者全員分、2年間遡って保険料の支払いを命じられます。
本来、保険料の半額は従業員が負担すべきものですが、この場合、「今回2年分の保険料の支払い命令を受けたから半額を徴収するよ。」 と従業員に言うのはなかなか無理があるのではないでしょうか。

結果的には全額会社負担になるのかと思われます。




社会保険は公的保険であり、要件を満たしている会社は加入する義務があります。とはいえ、法律通りに社会保険に加入すれば経営が立ち行かないと考え、加入を見送る会社があるのが現実です。

保険は将来起こるかもしれないリスクに対し、一定の資金を出しあって危険を回避する制度ですから、資金を出さない選択肢をとるのであれば、それなりのリスクがあるということを忘れてはいけません。そして、そのリスクは決して小さくないと思います。




関連記事