定額残業代ははたしてメリットがあるのか

最近は都心部を中心に従業員からの残業代の請求がかなり増加しているものと予想されます。

残業時間を削減するには、変形労働時間制、みなし労働時間制などの特殊な労働時間制度を導入することがまずは有効と考えられますが、導入してもなかなか大幅な削減にはつながらなかったり、あるいは導入するには制度の整備などちょっとハードルが高いという企業もあります。その場合はとりあえず、毎月固定の定額残業代を設定して支給することが手っ取り早くて有効な対策であるとよく言われます。

定額残業代については労働基準法上明確に言及されていません。法律の趣旨からいって、積極的に奨励するような制度ではないと思われますが、過去の判例などを参考にして違法とされない運用を心掛ける必要があります。


定額残業代が合法と認められるためには以下の要件を満たさなければなりません。

・残業代に相当する部分が、他の賃金と明確に区分されている
・何時間分の残業代に相当するのか定められている
・実際の残業時間で計算された残業代が定額残業代を超えた場合には、その差額が支払われている


よく「残業代を毎月定額で払うようにすれば、後はどんなに残業してもそれ以上は払わなくていいんですよね。」と聞いてくる企業の方がいますが、実際の残業時間が定額残業代相当分を超えればその差額分は支払う必要があります。

会社からみれば、残業が少ない月は定額なので働いていない分も余計に払い、さらに残業が定額相当部分を越えたら超えたで差額を支払うことになり、労基法遵守の観点からいえば、定額残業代制度は会社にとって本来メリットのある制度とはいえないのです。



多くの企業が残業代を毎月固定で支給する本当の狙いは

いま現在支給している給与の中から残業代を捻出したい(つまり従業員の認識しているであろう自身の基準内賃金を実質引き下げることを意味します)

そして

見せかけの月例給与の総支給額を多くしたい

という2点につきます。

これはどちらも従業員にとって不利益な事項であり、やり方によっては従業員のモチベーションに大きなマイナス作用を及ぼしかねないということになります。

現在の総支給額の中のいくらかを定額残業代として設定するのであれば、当然従業員一人ひとりの同意書をとるのは必須です。


そして、最も重要なのは、月例給与内における定額残業代の比率です。定額残業代が多い会社になると、残業80〜100時間分という目を疑うような定額残業代を設定している会社も現実に存在します。

※これについては以前の記事で某居酒屋チェーンの実例をとりあげていますので参照。
長時間労働の代償1億円の現実 - 人事労務コンサルタントmayamaの視点



例えば月給20万円の労働者について月3〜4万円程度の定額残業代であれば常識的な金額とも考えられますが、定額残業代が月例給与の半分にも及ぶようなあまりにも労働者にとって不利益な設定だと、いくら労使で合意しているとはいえ法的な有効性を否定されるリスクも否定できません。

そして当然ながら定額残業代の多い会社は、労働者の実際の時間外労働も多くなる傾向にあると考えられます。長時間労働による過労死などの労災事故が発生した際に、このような異常に高く設定されている定額残業代の実態が判明すれば、企業の損害賠償責任はさらに高くなる恐れも考えられます。
(80〜100時間分の定額残業代を設定しているということは、その会社が毎月80〜100時間の残業を労働者にさせることを予定していたととられかねません。そんな会社が安全配慮義務を履行しているとは到底考えられないということになります。)

また、このような会社は、実際の残業時間によって計算された残業代が定額残業代を超えた部分の差額をきちんと支払っていないケースも多いのではないかと思われます。もしもこのことが判明すれば、定額残業代は労基法上の時間外手当とは認められず、別途残業代を計算して支払うことになるのはいうまでもありません。

そして何より、定額残業代を大きくして見せかけの総支給額を高くしようとしても、実態を知った労働者は落胆し、帰属意識やモチベーションは低下するのは目に見えています。定額残業代を大きく設定する会社は、「うちはブラック企業だから、入社したら毎日たくさん残業をさせるぞ」と宣言しているようなものです。



定額残業代の適切な額は残業時間20〜30時間分とすることが最も望ましく、残業代圧縮、人件費管理に加え、リスク管理面から考えても最もメリットのある運用といえるのではないでしょうか。多くても月45時間分以内に抑えるべきであると思います。



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